大阪府立大学テニュアトラック制 2017年11月更新
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【略  歴】 平成22年3月、博士(工学)取得(東京大学大学院工学系研究科) 。日本学術振興会 特別研究員を経て、平成25年4月、大阪府立大学大学院工学研究科 テニュア・トラック助教に着任。新物質探索研究は、新物質の発見によって新しい物理を開拓できるという点でやりがいを感じます。今後もインパクトのある物質の探索を行っていきたいと考えています。 新物質探索研究は、試行錯誤が多く、思い通りに研究が進まないことが多いですが、成功したときの喜びは人知れず大きいものだと思います。これまで地道かつ堅実に研究を進めており、今後の研究の発展に期待しています。 私たちの生活は、誘電体、磁性体、イオン伝導体といった様々な結晶性材料から作られる電子部品、センサー等によって支えられています。これらの機能性は、物質の持つ結晶構造と深い関わりがあります。結晶構造は単純なものから複雑なものまで様々であり、それぞれ個性を持っています。私の研究の主な興味は、物質が示す様々な物理的性質が、結晶構造のどのような個性によって現れているのかを明らかにすること、また、個性的な結晶構造を持つ物質に着目し、その機能性を引き出して行くことです。このような物質研究は、日々の地道な実験が必要ですが、うまく合成できなかったものが合成できた時や、思いがけず別の物質が出来た時の楽しさを原動力として、研究を行なっています。   本研究では、頂点共有したAlO4などの酸素四面体がネットワーク構造を有すBaAl2O4などの酸化物に着目し、新規物性の開拓を行っています。この物質は、地球上に鉱物として存在するβ-トリジマイトの結晶構造に類似した結晶構造を持ち、AlO4四面体が作る六員環間隙をアルカリ土類金属元素が占有した結晶構造を有します。この物質は、約450ケルビンで構造相転移を起こすとともに、強誘電性が発現します。一般に、酸素四面体などの多面体が頂点共有により連結したネットワーク構造を持つ物質においては、多面体自体は歪まずに、多面体の連結角度が曲がることにより生じる、RUMと呼ばれる低エネルギー格子振動(ソフトフォノン)が存在することが知られています。こうしたRUMは従来、変位型構造相転移の相転移機構やトリジマイト(SiO2)が示す不整合相転移およびZrW2O8が示す負膨張のメカニズムとして議論されてきています。またソフトフォノンは、電子線回折やX線回折における熱散漫散乱として観測できます。  最近本研究では、充填トリジマイト酸化物BaAl2O4において詳細な電子回折実験と放射光X線回折実験を行い、ネットワーク構造のRUMに由来する集団的な構造揺らぎが、100 Kから800 Kまでの幅広い温度範囲で存在することを見出しました。このように広範囲で構造揺らぎが生じていることは非常に稀で、この物質特有の性質です。奇妙なことに、この物質では低温になるに従い、ますます揺らぎを強めていくことが分かりました[1]。この構造揺らぎの起源について、第一原理計算や放射光X線回折を用いた解析を行った結果、この物質にはブリルアンゾーンのM点とK点にほぼ同程度の格子不安定性があることがわかりました。興味深いことに、放射光X線回折実験からは、これらのソフトフォノンによるX線散乱強度が、ともに構造相転移温度に近づくにつれ増大することがわかりました。このことは、BaAl2O4の構造相転移では2種類の異なるフォノンの同時ソフト化が起こっていることを意味します[2]。テニュアトラック教員としての抱負第1メンターより森 茂生 工学研究科 教授研究内容【略  歴】 平成22年3月、博士(工学)取得(東京大学大学院工学系研究科) 。日本学術) 。日本学術)振興会 特別研究員を経て、平成25年4月、大阪府立大学大学院工学研究科 テニュア・トラック助教に着任。テニュアトラック教員紹介石井 悠衣専門分野:固体化学、無機材料 工学研究科Yui ISHII[1] Y. Ishii et al., Scientific Reports 6 (2016) 19154.[2] Y. Ishii et al., arXiv:1510.02919 [cond-mat.mtrl-sci].図1 特異な構造揺らぎを持つ、新しい強誘電体BaAl2O4H25年度採用新しい酸化物強誘電体の構造揺らぎ -9

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