大学広報誌OPU Vol.02「紡」
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上田講師が現在関わっているのは、河内長野市高齢者住宅改造助成事業だ。河内長野市同様多くの自治体が住宅改造費助成サービスを行っており、家族の依頼で建築業者がプランを作成して申請する。「業者プランの問題点の多くは、家族が出した希望をそのままプランとしてあげてくることです。彼らは建築のプロですが、病気や障害のプロではないので無理もありません。この改修はこの人の身体状況にはあわない、というプランも多々見受けられます」上田講師は市の要請があれば、住宅に問題を抱えている人と直接面接し、病気の状況を聞き取り、障害の具合を実際に確かめ、設計プランを再検討して不都合な部分を修正するアドバイスを行っている。「車椅子など移動方法により必要なスペースや角度が異なります。手すりひとつとっても取り付ける場所や方向など、身体の状況によって変わってきます」こうした話し合いを地元の業者さんと何度か重ねるうちに、意図が伝わりやすくなり、修正箇所が減ってきたそうだ。「高齢者や障害者の『自立度の改善』が図れる住環境整備のためには、建築業者のほか作業療法士、理学療法士などのスペシャリストや、日常の支援技術を持つホームヘルパーや看護師などがもっと積極的に関わっていくべきだと私は思います」自助具はさまざまな障害によって失われた機能を人間工学的な考え方を応用して補完・代行し、目的を達成する道具である。「たとえば普通のスプーンが握れなくて、食事をするという目的が達せられない人も、手に固定できるスプーンがあれば食事がで住んでいる環境に体を合わすことが難しくなったとき、リハビリとご本人の体にあわせて環境を整えていく、この2つのアプローチが必要です。総合リハビリテーション学部 総合リハビリテーション学研究科 一人ひとりの身体の動きに合わせて住宅改修のアドバイス市販の一般用品も工夫次第で自助具にさまざまな自助具。上段の青と黄色のものは“靴下履き器”。中央の木製の2つは“爪切り器”、その右手にあるのが“ハサミ”で、いずれも指や腕の不自由な人が使えるように工夫されている。お茶の先生の家で、元は飛び石が敷かれていた。パーキンソン病による転倒防止のため、道を平らにするだけでなく「赤い線を入れましょう」とアドバイス。パーキンソン病の患者は階段はうまく上がれるが溝をまたぐのは難しいなど、目標があると足をうまく運べるという特性がある。そのため目印となる線を入れた。きます。誰だって人に介助してもらって食べるよりも、自分で食べる方がおいしいですから」現在、一般に市販されている自助具は、高機能化の一方で使いやすいユニバーサルデザイン化した製品も多く見受けられるようになってきた。アイデア商品や百円ショップなどでも自助具として十分活用できるものが出回ってきている。上田講師は日本リハビリテーション工学協会に所属し、SIGでは自助具の開発や研究に携わっている。自助具には、膝や股関節が曲がらない人のための靴下履き器などもあるが、かつては「レントゲンフィルムを代用したこともあった」そうだ。府大の学生も市販の爪切り器を使用して『握らなくても使える爪切り器』を製作した。もちろん適当なものがない場合は、その人に合わせて自助具を製作することになるが、一般の生活用具を従来の使用法と異なる目的で使用したり、ちょっと工夫を加えることで自助具として活用できることもあり、「検討してみる価値はあるのでは」と上田講師は語る。「今まで住んでいた地域で、今までと同じような生活が一人ひとりできる。ここを支えていくのが作業療法士の仕事の最終目標」というのが上田講師の信条だ。自分自身も含め、現在は作業療法士も病院、保健所、療育センターの中だけではなく地域に出かけ、広範囲の業務をカバーすることが多くなった。そんな時代の作業療法士はどうあるべきなのだろうか。「まず自分自身がきちんとした生活者であること!また、人間相手の仕事なのでしっかり話が聞けて、受け止められる人であることも大切です」最後に日本と海外の在宅介護との比較をうかがった。「アメリカで生活していたとき、同じアパートの高齢者のもとには、1日3回、車で食事が運ばれてきていました。それはすべてボランティアでした。アメリカは福祉切り捨てのようなイメージがありますが、案外そうではなくて、ボランティアや金持ちの寄付でできた施設などが高齢者や障害者を支えています。北欧は高い税金が高福祉の背後にあります。日本のこれからの在宅医療、在宅看護を誰が支えていくんだろうと考えると、正直ちょっと不安になりますね」作業療法士の活躍の場はどんどん広がってきている28

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