大学広報誌OPU Vol.01「新」
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節の動かし方などを分析したり、記録がいいときのフォームと悪いときのフォームを比べたり、選手強化に役立ててもらっています」アテネ・パラリンピックでも、奥田教授の動作解析は活用された。「こうした障害者の競技スポーツに参加している人は、障害が比較的軽い人が多いのが現状です。たとえば、陸上競技といえば、多くの人は車椅子で走っている姿をイメージするでしょう。しかし、このようなトラック競技以外にフィールドで行う投てき競技があり、かなり障害の重い人も挑戦できます」重度障害者のスポーツ普及を強く願う奥田教授は、投てき競技のための用具開発にも乗りだした。椅子に座って砲丸やこん棒などを投げる投てきの国際競技では、フィールドに各国の選手たちが持ち込んだ様々なスローイングチェアーが並ぶ。しかし、それは「自分だけの椅子」だ。「投てき競技はまだまだマイナーなスポーツですが、その普及のためには多くの人に使ってもらえるスローイングチェアーが必要です。そこで、その人の身体のサイズや障害に合わせて調節できるスローイングチェアーを、文部科学省のバックアップも受けて、開発することができました」この調節式スローイングチェアーを試用したアテネ・パラリンピックの円盤投げ選手からは、「自分のベストな状態で投げられるので、アテネで出した記録を上回りそうだ」との上々の評価をもらっている。「将来的には、スローイングチェアーを養護学校とか、障害者のスポーツセンターに置いてもらって、投てきをやってみようかなという人を増やしたい。普及のベースにしたいと思っています」障害者のスポーツを研究するため、多くの障害者に対して、スポーツをするきっかけ、その後の変化など、いろいろな項目でアンケート調査を行った。その結果、スポーツを始めてから自分の障害を受け入れられるようになった、可能性を見いだせたなど、スポーツには障害受容を促す効果があることが分かった。重度の障害がある人が取り組むボッチャの選手などは、ボッチャは「生活の一部であり、生きがいである」と語る。「先天性の障害でなく脊髄損傷などで重度の障害をおった人は、元の自分の姿を追います。落ち込み、引きこもり、自殺を考える人もいます。しかし、スポーツすれば外出もし、そこで仲間ができます。夢中になって競技に取り組んでいる過程では、怒鳴ったり、ミスして落ち込んだりと、やんちゃな頃の自分を発見することもあるでしょう。家族もそれを見て『やるじゃないか』となり、家族関係の再構築もできやすいのです」こうした障害者のスポーツの効果を知り、奥田ゼミの学生をはじめ多くの学生が、スポーツボランティアを務めている。また先日は、ゼミ生たちが、障害者のことをもっと知ってほしいと小学生対象の紙芝居を作った。障害者も健常者も同じようにスポーツを楽しみ、ともに生きる社会の実現は、子どもの頃からの啓発も大切だろう。奥田教授は最後にこう語った。「ボッチャをいっしょにすれば楽しいですよ。きっと、我々が負けます!」障害者のスポーツが持つ多面的な意義総合リハビリテーション学部奥田 邦晴教授Kuniharu OkudaProfile理学療法士、医療福祉学博士大阪府立身体障害者福祉センター勤務を経て、1994年より大阪府立看護大学医療技術短期大学部、2003年より現職。(財)日本障害者スポーツ協会科学委員(社)大阪府理学療法士会理事日本義肢装具学会評議委員、ほか。Comprehensive 文部科学省の支援で開発!調節式スローイングチェアー「スポーツは、障害者が自立した生活を送ることや自己実現のための一手段として、また、重度障害者が社会に踏み出す第一歩として重要な役割を果たしています」動作解析のためのデータづくりには、学生たちも協力。数台のコンピュータを同時に使って作成される。(上)手が不自由な障害者もランプス(樋のような器具)でボールの方向を決め、競技者の意思でボールを転がして競いあう「ボッチャ」。(下)選手たちとともに、学生たちも体育館で車椅子バスケットボールを体験。総合リハビリテーション学部 理学療法学専攻30

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