大学広報誌OPU Vol.01「新」
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上げる高性能受信機の開発に小川研究室では成功した。小川教授は電波をとらえる受信機の話を、こう分かりやすく説明する。「ラジオを聞きながらトンネルに入ると、ザーッという雑音に変わりますよね。あの雑音もうんと小さくすれば、ラジオを聞くことができるのです。その雑音を下げる方法としては、低温で超伝導状態を作ってやればいいのです。そうしたものを使った低雑音、つまり高感度な受信機を私たちは開発して、いろいろなところに供給しています」電波望遠鏡での観測は信号が弱いために積分する(貯めておく)が、もし雑音を3分の1にすることができれば時間は9分の1で済む。つまり、これまでは10年近くかかったデータが約1年で取得できるようになり、これは天文学にとって画期的なこととなる。「いま研究室として一番重点を置いているのは、望遠鏡に載せる、どこにもない受信機を作ることです。自分たちで作った装置で、誰も見ていないものを見る!非常に興味あふれる世界が広がっていると思いませんか」「分子雲では、ガスからは電波が、ちりからは赤外線などが出ています。電波や赤外線は光よりも波長が長いため、ちりの影響をあまり受けないので、電波や赤外線を使うと分子雲の中を見ることができます」電波望遠鏡を使って撮影した写真を見ると、分子雲の濃いところに生まれたばかりの星が集中していることが分かる。小川研究室では、星の生まれる過程を調べるために、分子雲の観測を行い、これまでに500以上の分子雲を発見してきた。「星が生まれるまでに要する時間は数千万年です。ひとつの星の進化を追いかけることは不可能ですが、さまざまな状態にある星をたくさん観測し、これらの大量のデータを統計的に処理することによって、星の生まれる過程を解明することができます」小川教授の研究室テーマのひとつに「大質量星の進化」がある。「太陽くらいの星は中小質量といって百億年くらいの寿命を持っています。太陽の10倍くらいの大質量星になると寿命は数千万年で、寿命が短いために見つける確率が非常に低くなります。また、大質量星のできる背景はそう簡単ではなく、どうして大きくなるのかも研究課題です」大質量星は一生を終える時しばしば爆発を起こす。その時には、人間を作っている元素が宇宙空間にまき散らされる。「大質量星の進化は、我々人間がどこから来て、どこへ行くのかという、誰もが興味を持つ命題にも通じています」宇宙初期における銀河の誕生、いまも続くさまざまな星の誕生、そして生命につながる物質の進化…。ロマンあふれる宇宙物理学の研究は、電波望遠鏡の進歩とともに発達してきたが、この電波望遠鏡の性能をさらに引き宇宙の研究は、競争から協力の時代に入った。その象徴ともいえるのが南米チリで行われるALMA(アルマ)計画である。80台の巨大なアンテナを組み合わせ、ひとつの大きな電波望遠鏡を合成。ここでの成果は、天文学にとどまらず惑星物理、物理化学、生命科学に応用されようとしている。このALMAの全アンテナに、大阪府立大学で開発した高性能受信機が搭載される。「ALMA完成は2011年の予定です。この国際研究の場で世界の科学者と共同研究する若い研究者を育てるのも、いまの私の目標です。そしてもう一つ、高感度、高性能な装置をどんどん開発する人材も同時に育てたいと思っています」と小川特命教授は語る。大阪府立大学を受信機の感度を上げる一大拠点にし、世界の大学とも絡んでいろんなことをやりたい。小川教授の夢は実現に向けて着々と進んでいる。「日本と欧米の合同プロジェクトALMAは、国際協力による宇宙観測が実現したものです。若い研究者はここで壮大な夢を追ってほしいですね」理学部・理学系研究科小川 英夫教授(特命)Hideo OgawaProfile1999年大阪府立大学教授就任。研究テーマは「星間分子の研究」「超低雑音受信の開発」「自分で作った望遠鏡で見たこともないものを見るのが」目標。趣味はオペラ鑑賞、山登り。ALMA(Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)日本、アメリカ、ヨーロッパ各国が協力して南米チリのアタカマ高地(標高5000mの砂漠地帯)に作るアルマ完成予想図。世界が協力して宇宙の謎に迫ることになる。〈上〉学内にある電波望遠鏡。〈下〉レドームで覆われた電波望遠鏡。低雑音の受信機などを開発するための実験装置大質量星はどう進化していくのかどこにもない受信機を作りたい!世界とのコラボレーションも始まった〈右〉低雑音受信機の心臓部の超伝導ミクサ〈左〉ミクサ等を収納する絶対温4K(-269℃)に冷却するデュワー(国立天文台提供)理学部・理学系研究科20

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