大阪府立大学 ロールモデル集
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きたと思います。そのことが、1冊目の単著では、中絶と子殺しと捨て子に関する日本で初めての言説分析に結実しましたし、2冊目の単著では、日本だけにみられる企業による家族計画運動と政府の人口政策の結びつき、そしてそれに積極的に参画していった女性たちの姿とその限界を実証しました。これらの研究は、中絶については法学や医学研究といった既存の学問的枠組みを超えた点、家族計画については1990年代にブームだった少子化の話題に振り回されることなくその源を探った点に価値があります。そして、私の研究を常に支えているのは社会学的調査、丹念に収集したデータと協力してくださった方々です。研究のこれからリプロダクティブ・ヘルス/ライツと妊娠を大切にする社会を目標に、大阪府立大学でシステム改革を行い、また以下の共同研究を展開しています。第一に、シングルマザー、特に少数派である非婚母に関して日韓比較調査を行っています。非婚母は、婚姻外妊娠の多くが中絶に到るため、年間の出生数の約2%に留まっています。既婚であってさえマタニティ・ハラスメントが起こってしまう日本社会で、リプロダクティブ・ライツの問題が最も集約されている社会現象の一つであり、この解決なしにはジェンダー平等はないと考えます。比較対象国は日本と同様に非嫡出子の出生が抑制されている韓国ですが、市民の権利運動がとても力強く、企業のCSRとの連携も盛んなので、日本で活かしたいです。第二に、リプロダクティブ・ヘルス/ライツのアジア諸国での比較研究です。私のフィールドは日本ですが、アジアのなかでは(世界的にも)非常にユニークな歴史状況です。アジアのほとんどの国は人口政策として家族計画を実施してきましたが、その先鞭をつけた日本が、現在どのような課題を抱えているのかを国際比較から指摘し、女性たちが置かれている状況の改善に役立てたいです。第三に、災害に備えた女性たちのエンパワメント研究です。発災時から復興まで、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツをしっかり視野に入れ、女性たち自身がエンパワメントする取組みを実現したいと模索中です。田間 泰子Yasuko Tama人間社会システム科学研究科 人間科学専攻 地域保健学域 教育福祉学類 教授 博士(文学)Profile1979年▶京都大学文学部哲学科 美学美術史学専攻 卒業1984年▶京都大学文学部哲学科 社会学専攻 卒業1987年▶京都大学大学院文学研究科博士前期課程社会学専攻 修了1990年▶京都大学大学院文学研究科博士後期課程社会学専攻 単位修得満期退学1990〜1996年▶熊本大学文学部地域科学科社会学講座・同大学院文学研究科(専任講師・助教授)1996〜1999年▶大阪産業大学短期大学部 助教授1999〜2005年▶大阪産業大学経済学部国際経済学科・同大学院経済学研究科国際経済学専攻(助教授・教授)2002〜2003年▶オーストラリア国モナシュ大学日本文化研究センター客員研究員2005年〜▶大阪府立大学 人間社会システム科学研究科人間科学専攻 教授、地域保健学域教育福祉学類 教授、人間社会システム科学研究科副研究科長(すべて現職・兼任)その他、同大学女性研究者支援事業プログラム・オフィサー(実施責任者)、地域保健学域副学域長、人文科学系長などを歴任【主要業績】2007年▶東京女子大学女性学研究所青山なを賞特別賞(単著『「近代家族」とボディ・ポリティクス』)2011年▶Connel Award, Association for Asian Studies(代表者:小浜正子のグループ報告)2017年▶「男女共同参画社会づくり功労者」内閣総理大臣表彰リプロダクティブ・ヘルス/ライツと妊娠を大切にする社会を目標に常に女性の身体と結びついた基点を忘れず社会現象をとらえなおすことによって、ユニークでラディカルな研究を提示できてきたと思います2017年6月に内閣総理大臣表彰をいただいたとき、大学の皆さんからお祝いにいただいた花束の一部です。賞は私個人にいただきましたが、大阪府立大学をより良くしようと、一緒に頑張ってくださった方々全員のものだと思っています。フラフラと出歩くのが好きです。オーストラリアは国土全体が珍しい植物園といった感じで、歩いているだけでとても幸せです。大阪府男女共同参画審議会委員や東大阪市男女共同参画審議会委員長を務めるなど、大阪府内の男女共同参画政策への功績が認められ、2017年に男女共同参画社会づくり功労者 内閣総理大臣表彰を受賞。大阪府立大学においても、女性研究者支援センターの牽引、ダイバーシティ研究環境研究所の設立など、男女共同参画ができる大学づくりに貢献されています。思い出休日の過ごし方シドニー郊外Manlyのトレイルで撮影した花研究を    に生かす社会17

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