大阪府立大学 ロールモデル集
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研究概要研究の出発点は、人工妊娠中絶の研究です。中絶は、刑法上は堕胎罪という犯罪ですが、第二次世界大戦後の日本を世界史上初といわれるほど急激に少子化させた行為でもあります。ミクロなレベルでは個々の女性の身体と人生に関わりながら、マクロには国の政策の基盤としての人口に関わるもので、その社会、ときにはグローバルな政治の実践となります。単著『母性愛という制度―子殺しと中絶のポリティクス』(勁草書房、2001年)では、新聞記事の言説分析から、戦後日本が決して母性を尊重したわけではなく、支配的価値は法的婚姻をした戦後家族制度であることを指摘しました。次の展開として、中絶を時には許容し時には拒絶する家族計画運動について、日本特有の企業主導の運動を研究し、単著『「近代家族」とボディ・ポリティクス』(世界思想社、2006年)にまとめました。企業中心の社会福祉制度・労働市場が家族形成や女性の地位向上と密接に結びついて形成された過程を、リプロダクティブ・ライツに留意しながら克明に論じています。社会が妊娠をどのように意味づけ統制するのか、またどのような社会が望ましいのかを、ずっと研究しています。研究の魅力、独自性および従来研究と比べての優位性研究の独自性は、女性の身体とリプロダクティブ・ライツを揺るぎない基点としていることから生じています。家族研究もフェミニズムも、また社会学自体もその時代時代で話題や視点が変わり、私のテーマは現代では「少子化対策」や「ワークライフバランス」「女性の活躍促進」といった政策課題と結びつきがちです。そのような課題も重要ですが、常に女性の身体と結びついた基点を忘れず社会現象をとらえなおすことによって、ユニークでラディカルな研究を提示できてMODEL05田間泰子(2006)『「近代家族」とボディ・ポリティクス』世界思想社.16

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