大阪府立大学 ロールモデル集
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研究概要植物は固着生活を営むため、病原菌や害虫から逃げることができません。その代わり、外敵の存在を敏感に感じ取り、複雑で精巧な防御機構を発達させてきました。植物の細胞が外敵を認識すると、その情報を素早く周辺の細胞や離れた組織に伝えます。その結果、植物体全体で防御反応が開始され、抗菌物質や消化阻害物質などを生産して更なる被害の拡大を防ぎます。私達は実験植物のシロイヌナズナを使って、被害情報を周りの細胞に伝達する23アミノ酸からなるペプチド(AtPep)を研究対象にしています。細胞外に出たAtPepは周囲の細胞に認識されなくてはいけませんが、その認識に関わる受容体タンパク質(AtPEPR)を特定しました。AtPEPRは細胞膜上に存在しており、細胞外からの情報を細胞内に伝える役割をしています。AtPEPRは外敵を認識する受容体ととても良く似たタンパク質で、同じように防御応答を起こすとともに、AtPepによる情報の拡散を再び引き起こします。つまり外敵がやってきたという情報をAtPepとAtPEPRが増幅させ、強力で効果的な防御反応を誘導すると考えています。また最近になって、AtPepをシロイヌナズナに沢山作らせると、塩ストレスに対しても強くなることが分かってきました。病害虫被害などの生物的ストレスと、乾燥や塩などの非生物的ストレスに対する応答が一部重複していることが知られていましたが、そのメカニズムはまだまだ不明です。AtPep-AtPEPRシステムを使って、複雑な環境ストレス応答機構の一端を明らかにできればと思っています。研究の魅力、独自性および従来研究と比べての優位性植物自身が作り出すペプチドが、防御応答を起こすことは1991年に初めてトマトで報告されましたが、その後あまり大きな進展はありませんでした。私達がシロイヌナズナからAtPepとその受容体であるAtPEPRを発見したことによって、この分野の研究が大きく進むきっかけとなりました。植物が外敵の感染や増殖を抑える能力を獲得すると、今度は外敵がそれを打ち破る能力を獲得します。このように外敵の攻撃と植物の防御はいたちごっこで進化してきました。AtPepは多くの被子植物で保存されていますが、植物によってその重要度は異なるようで、被子植物の進化のごく初期に発達した機構ではないかと考えています。私たちはまたマメ科植物やナス科植物からそれらに特有のペプチドを単離しており、それらの方が後に発達してより有効である可能があります。この分野では実験植物を使用した研究ばかりが進んでいますが、実用植物でペプチドの研究が役立てられることを目指して、マメ科植物やナス科植物を用いた研究も展開していきたいです。研究のこれから日本ではあまり感じることはありませんが、増加している世界人口を養うためには単位面積当たりの作物生産量を上げることが不可欠です。一方、病害虫による被害は、作物の生産量を減少させる大きな要因となっています。植物の防御機構を明らかにすることが、植物自身の能力を有効に利用した耐病害虫品種の育成や栽培技術につながるのではないかと期待しています。また、植物は外敵の攻撃を受けると防御物質を作り、蓄積します。防御物質の種類は植物によって様々で、抗菌作用や抗ガン作用、抗酸化作用などを示す有用な物質も含まれます。私の研究対象にしている防御応答を誘導するペプチドは、これらの物質生産経路を活性化するので、有用物質生産に応用できると考えています。大阪府立大学は完全人工光型植物工場の研究拠点となっています。私も大阪府立大学に来てから植物工場での野菜生産に関するプロジェクトに参加しています。環境条件を調節できる植物工場のメリットと、これまでの環境ストレス応答研究の経験を生かして、完全人工光型植物工場の発展に貢献できればと思っています。AtPep-AtPEPRシステムから植物の複雑な環境ストレス応答機構の一端を明らかに環境条件を調節できる植物工場のメリットと、これまでの環境ストレス応答研究の経験を生かして完全人工光型植物工場の発展に生かしていきたい10

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