大阪府立大学 ロールモデル集III
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夢に向かって努力を続ければ、多少形は変わっても願いは叶うと思います。研究の世界に限らず、社会生活一般において、自分らしさが発揮できたら素敵だと思います。分子の多様性は無限であり、特別な機能を持つ分子の設計戦略は研究の要です。科学の教科書に新しい1頁を刻むべく基礎研究を行っていますが、その先には室温で電気を流す有機磁石(を世界で最初に作る)があると思っています。 大学での研究は、内容と場所を同時に選ぶことが案外困難です。分子研に就職して1年後に結婚しましたが、週末のみを共に過ごす週末婚を1年、夫の海外勤務4年を経て、共に大阪で職を得ることになるとは想像もしていませんでした。晴れて夫婦同居が叶い、子どもにも恵まれました。研究室構成員一人でてんてこ舞いし、正直なところ、研究者生命の危機すら感じました。2005年に助教と卒研生・院生が加わってから、ようやく研究室が機能するようになりました。子どもの送迎を考え大学から歩いて通える距離に住み、夫には1.5時間の通勤を強いているものの、京都の姑やファミリーサポートセンターの協力もあり、なんとか続けられています。一番手のかかる乳児期が過ぎても子育ては続くので、なかなかバランスが取れず試行錯誤を続けています。そのうち時が解決してしまうのかもしれません。 「細越さんは女性だから、就職では苦労すると思うよ」大学院博士課程入学試験の翌日から、指導教授にご心配いただきました。幸運なことに、分子科学研究所の助手(今の助教)に採用され、有機磁性研究を続けることができました。 世代交代の時期でもあり、一学年下にはライバルが多く、タイミングが良かったと思います。分子研最初の女性教員でした。文部科学省直轄の国立共同利用研究所で、数多くの先端機器を利用しながら研究に専念できる環境ですが、流動性の方針から6年間を目途に転出を推奨されるポストです。 5年目頃から公募に応募を始め、あるとき思い切って物理系のポストに初めて応募し採用されたのが大阪府立大学でした。有機磁石の発見は化学の常識を覆すものとして注目されましたが、物理学的観点から発展させたいと、物理科学科で一から研究室を立ち上げることにしました。新物質開発は我が研究室の看板として、物理科学科でも有機合成を続けています。「新しい物質が新しい科学を拓く」という信念です。30年後には物理の研究室で有機合成が当たり前になってほしい、という野望を持っています。研究室を軌道に乗せるのに5年ほどかかり、最近ようやく新物質合成を進めながら物性測定にも力を注げるようになりました。 研究室スタッフや学生の協力の賜物です。現在は自分を含めて3人のスタッフで学生16人の指導をしています。 小さい頃は、内気でおとなしい子どもでした。理系に進路を決めたのは高校生の頃で、語学と数学が好きだったので、理系ならどちらも生かせると考えました。大学に入学した頃、将来は研究者になりたいと漠然とした思いがありましたが、具体的に考えるようになったきっかけは、学部3年生の夏に新聞の科学欄の片隅に「有機超伝導」という言葉を見つけたことでした。「有機化合物で(超伝導という)物理の研究がしたい」と考えるようになりました。 卒業研究では、高分子化学研究室の中原先生が導電性有機薄膜のテーマを新しく作って下さり、物性研究に不可欠な低温実験ができる東京大学物性研究所の外部受験も後押しして下さいました。試料合成のため有機化学の研究室で2週間ほど有機合成の基礎を学ばせていただいたことが、後々役に立ちました。 大学院では、有機化合物で磁石を作る「有機磁性」の研究室に進学しました。より未開拓の研究分野で、黎明期に立ち会えて面白そうと思ったからです。その研究室の物質合成と物性測定のバランスが自分のイメージに近かったこともあります。幸運なことに、入学直後に所属する木下研究室で世界最初の有機磁石が発見され、この分野の研究が盛んになっていくのを目の当たりにしました。 当初の自分の予想とは少し異なる展開だったことが、今こうして物理の分野で研究を続けることにつながっています。●社会人時代(1996~)●学生時代(~1996)家事・育児30%趣味・趣味・趣味・その他その他その他5%5%仕事65%1996~岡崎国立共同研究機構分子科学研究所助手2002~大阪府立大学助教授2009~大阪府立大学教授 ~1991埼玉大学理学部卒業~1993東京大学大学院修士課程修了~1996東京大学大学院博士課程修了1997結婚2003第1子出産Personal HistoryWork Life Balance●学生時代●社会人時代Message後輩へのメッセージ将来の目標・夢Dream19

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