プレスリリース

分子を使った乱れの設計により量子スピン液体を実現―新たな量子現象を取り込んだ新材料の開発を可能に―

更新日:2017年11月24日

本取り組みのポイント

ランダムシングレットの概念図。

ランダムシングレットの概念図

  • 新たに開発した錯体分子において磁気ネットワークに乱れを導入することで、量子スピン液体として振る舞うことを実証。
  • これまでに量子スピン液体として報告されていた物質の本質が、乱れによってランダムに形成されるスピンのペア(ランダムシングレット)である可能性を示唆。

概要

磁性体においてその磁性を担っている電子スピンが絶対零度においても凍結しない、量子スピン液体の実現は、近年の物性科学における到達目標の一つとされています。これまでにその候補物質として報告されてきたものでは、スピンが時間的にも空間的にも揺らいで量子スピン液体を形成していると考えられてきました。しかし、最近の理論的研究によって、物質中での偶発的な乱れから生じる、ランダムシングレットと呼ばれる特異な量子状態が、量子スピン液体の本質である可能性が指摘されていました。そこで本研究グループは、分子の設計性を活用した物質デザインにより、磁性体に意図的に乱れを導入することで、ランダムシングレットの実証を試みました。

具体的には、有機ラジカルを金属原子に配位させた分子性の金属錯体を合成しました。金属原子に配位させることでラジカルの分子内回転自由度を消失させて、2種類の異性体を作り出しています。これによって結晶中では2種類の分子がランダムに配列することになり、分子の繋がりから成る磁気ネットワークの結合の強さにも乱れが出現します。低温での物性を調べた結果、磁化率、磁化曲線、比熱の全ての実験結果において、量子スピン液体の実現を示唆する振る舞いが観測されました。本研究成果は、これまでに量子スピン液体として報告されていた物質の本質が乱れによるランダムシングレットである可能性を示唆する重要な結果となりました。また、分子の自由度を利用することで乱れを取り込んだ量子磁性体のデザインが可能であることが実証され、量子物性を取り込んだ磁性材料の開発に新しい可能性をもたらしました。

なお、本研究は2017年11月23日19時(日本時間)に雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

論文タイトル「Randomness-induced quantum spin liquid on honeycomb lattice」

用語解説

解説1 磁気ネットワーク

磁性体中では、電子の自転運動に対応する物理量であるスピンが、小さな磁石のような振る舞いをして磁気を担っている。スピン同士は交換相互作用と呼ばれる相互作用によってつながれており、スピンの場所を頂点、相互作用を辺として形作られる点と辺の集合を磁気ネットワークという。この磁気ネットワークは磁性体の性質を決める重要な要因となっている。本研究ではハニカム格子上の磁気ネットワークが形成されている。

解説2 量子スピン液体

磁気を担うスピンが互いに強く相関するにも関わらず、絶対零度においても凍結せずにスピンの液体的な概念で理解される量子的な状態。実際にその実現を明確にとらえることはできていないが、いくつかの候補物質において量子スピン液体に由来していると考えられる振る舞いが観測されている。スピンが時間的にも空間的にも揺らいだRVB状態がその本質を描く有力なモデルとして提唱されてきた。

解説3 量子磁性体

磁性体を構成する小さな磁石とされるスピンは、本来は量子力学的な量であり、厳密には磁石のように単純なモデルでは説明できない。スピンの量子性によって量子的な物性を示す磁性体は量子磁性体と呼ばれる。本研究は、量子磁性体デザインの一環として、乱れの設計による量子スピン液体の実現に取り組んだ。

解説4 量子エンタングルメント

古典力学では説明できない量子力学的な相関。2つのスピンの場合、片方の状態が決まると同時に、もう一方の状態もそれに応じて決まり、その関係はスピンの距離に依存しない。時空を超えた相関であり、量子力学を代表する不可思議な現象として知られている。本研究のランダムシングレットにおけるスピンのペアも量子エンタングルメントとなっている。

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