大阪府立大学

大きく湾曲したベンゼン環を有する非平面π共役分子の開発

更新日:2017年10月6日

公立大学法人大阪府立大学の大学院理学系研究科 神川憲 教授、津留崎陽大 助教、および東邦大学理学部 渡邊総一郎 教授、薬学部 東屋功 教授は、通常は二次元構造をとるベンゼン環を大きく湾曲させることに成功しました。

研究成果のポイント

  • 分子内に6つの[5]ヘリセン構造を有する六重ヘリセンの合成に成功。
  • 立体障害を集積化することによって、世界でもっともねじれたベンゼン環を生みだすことに成功。
  • 非平面π共役分子、およびナノカーボンの発展に、大きな貢献。

近年、フラーレンやカーボンナノチューブに代表されるような、曲がったπ共役分子(解説1)の開発に多くの関心が集まっていますが、本来、平面構造を好むπ共役分子をどのくらいねじまげることができるかは、曲がったπ共役分子を新たに設計する際の指針となる構造化学の本質に迫る課題です。このような大きく湾曲したベンゼン環を生み出すことができた要因は、1つの分子内にヘリセンと呼ばれるらせん状の多環芳香族化合物(解説2)の構造を6ヶ所持つ分子を設計し、複数のらせん構造が生み出す歪みを集積できる環境を作り出した点にあります。分子内の最もねじれたベンゼン環におけるねじれ角の大きさは、これまで報告されたベンゼンのねじれ角としては最大の35.7度を示しました。このベンゼン環は、ベンゼン環の2重結合をすべて還元し、単結合にした際に得られるシクロヘキサンのねじれ舟形構造に類似した構造をとったことになります。このような六重のヘリセン構造を有する分子を合成するにあたり、パラジウム触媒を用いたヘリセニルアライン(解説3)の環化三量化を行った結果、分子内に6つのヘリセン構造を有する六重ヘリセンの合成に成功しました。さらに、この大きくねじれた構造を有する分子は、トルエン中で加熱を行うことにより、さらに熱力学的に安定なプロペラ構造を有する六重ヘリセンへと構造変換できることも見つけました。今回の発見は、近年、盛んに研究が行われている曲がったナノカーボンの基礎的知見となり、様々なカーボン材料を設計する際の指針となることが期待されます。

なお、本研究成果はオンライン版「Journal of the American Chemical Society」誌で2017年10月4日に公開されました。

論文タイトル「Synthesis, Structures, and Properties of Hexapole Helicenes: Assembling Six [5]Helicene Substructures into Highly Twisted Aromatic Systems」

用語解説

解説1 π共役分子

二重結合(あるいは三重結合)と単結合が交互に入れ替わって現れる分子骨格をもつ分子。電気を通したり、強く発光したりする場合があり、次世代の有機材料としての期待されている分子群。

解説2 多環芳香族化合物

いくつものベンゼンが、繋がってできる化合物の総称。有機トランジスタ、有機太陽電池、有機 ELの設計において重要な有機材料の構成要素。

解説3 ヘリセニルアライン

ベンゼン環の一つあるいは複数に反応性の高い三重結合をもち、かつベンゼン環がらせん状に繋がった多環芳香族化合物。

お問い合わせ

大阪府立大学 大学院理学系研究科 分子科学専攻

教授 神川 憲

Tel 072-254-9721 Eメール kamikawa[at]c.s.osakafu-u.ac.jp[at]の部分を@と変えてください。