大阪府立大学

2020年度 学位記授与式学長式辞

更新日:2021年3月25日

皆さん、卒業、修了おめでとうございます。心からお慶び申し上げます。

本日ここに、2020年度、対面とオンラインを併用した形での春季の学位記授与式式典を挙行できますことを大変嬉しく思います。

この日を迎えるに当たって、皆さんそれぞれ大変な思いで学位取得の準備をしてこられたと思います。コロナ禍の不安の中で、いつもと違う日常生活の中で、この日のために努力を重ねてこられた皆さんに、心から敬意を表したいと思います。

このパンデミック下での生活は、世界中の殆どの人が生まれて初めて体験していることです。皆さんの場合は、この時期が学位を取得される年と重なりました。1年前の学位記授与式式典は中止せざるを得ませんでしたが、昨年3月に送り出した博士後期課程修了の方々は、あの東日本大震災の年に学士課程に入学した学年に当たり、彼らは入学した年が忘れがたい年であったという感想を述べていました。皆さんにとっても卒業・修了という節目の年が記憶に残る年になると思いますが、流行り病や自然災害といった人間の力ではどうすることもできない困難に遭遇した際、人はどのように振る舞うべきか、またそのようなピンチをどのようにしてチャンスに変えていくかを考えるきっかけにしていただければと思います。

本日、学域を卒業して学士の学位を得られた方は1,311名、大学院博士前期課程を修了して修士の学位を得られた方は672名、博士後期課程を修了して博士の学位を得られた方は61名、合計2,044名となります。

それぞれの学位を取得され、今後は様々な道を歩まれることと思いますが、大阪府立大学で学んだ多くのことを糧に、人生を実りあるものにしていただきたいと願っています。自ら学んでいくための基本を本学で身につけられた皆さんには、人生100年時代の今、どうか向上心を持ち続け、今後も自身を磨き続けていただきたいと思います。常に新しいことを吸収し、新しい発見に感動できる人であっていただきたいと願っています。

これから新しい世界に羽ばたいてゆく皆さんに、この機会に二つお願いをさせていただきます。一つは素直であること、もう一つは人との出会いを大切にすることです。

素直であること

まず一つ目、素直であること。私は長年、工学研究科で研究室の学生の皆さんと一緒に研究に取り組んできました。研究室内での研究進捗報告会、学会の発表練習などで学生の皆さんの発表に対して、気になる点の指摘や考え方の違いを述べる機会がよくありました。それに対して黙ってじっと聞いている学生もいれば、必ず一旦反発する学生、反応は千差万別です。でも皆さん、これからはどんな局面でも人の話をまず一旦、素直な気持ちでよく聞いてみませんか。話の中には、非難されていると感じることもあるでしょう。しかし人の話を遮って反発すれば、その瞬間に思考は停止してしまいます。私の教員としての経験からは、素直な学生ほど見違えるように成長すると感じました。自分自身の力だけでなく、多くの人の力を借りて、自分の弱点を見出し、修正し、向上していきましょう。

あの北野武さんが言っていました。「料理人に会ったら料理のこと、運転手に会ったらクルマのこと、坊さんに会ったらあの世のことでも何でも、知ったかぶりせずに、素直な気持ちで聞いてみたらいい。自慢話なんかしているより、ずっと世界が広がるし、何より場が楽しくなる」素直な心で、他人の意見を一旦受け入れることで、人は成長していけると私は思っています。

出会いを大切にすること

二つ目の出会いを大切にすることについて。私は大学、大学院を修了して40年が経過しますが、先日、私が所属していた学科の現職の先生から、同窓会誌に寄稿して下さいというお話がありました。そこで学生時代の6年間を振り返って、今に繋がるそのコミュニティでの出会いについて書かせていただいたのですが、2ページ程度の短い文章に、恩師や先輩、後輩、同級生が何と21名も登場して、そのお一人お一人に感謝を述べる内容となりました。私はその後の40年間、社会人として多くの人と出会い、職場としての本学でも大変多くの方々に支えられてきましたが、大学の学科や専攻という小さな括りの中だけでも、その後の人生を左右する大きな出会いが数多くあったことを再認識させられました。

どれほど優れた人でも、人は一人では生きていくことはできません。これまで皆さんは、多くの人と出会い、今日まで成長してこられました。何億人もの中での出会いは奇跡とも言えます。これまでの出会いに感謝することで、新しい縁を繋いでいきましょう。私は40年の教員生活の中で、研究においても日常生活においても「縁」というものの大切さを実感し続けてきました。出会いに感謝し、ここで出会った多くの教員、職員、先輩、後輩、友人との縁を今後も大切にし、人生をより豊かなものにしていただきたいと願っています。皆さんの今後の活躍を大いに期待しております。

Commencement「はじまり」

いつも学位記授与式で申し上げるのですが、アメリカの多くの大学では卒業式のことをCommencementと言います。Commencementは「はじまり」と言う意味ですから「卒業」という言葉とはすこしイメージが異なっています。「これから知の世界、真実の世界に旅立って新しい生活を始めましょう」というニュアンスが込められているとのことです。今はあまり先の見えない不安な時期ではありますが、止まない雨はないと言います。是非皆さんも前を向いて力強く歩んでいただきたいと思います。

最後になりますが、本日皆さんがこの晴れの日を迎えられたのは、お一人お一人の努力の賜であることは言うまでもありませんが、皆さんを支えてこられた周囲の方々のご支援があってのことと思います。そのことを強く認識し、そのような方々に、是非感謝の気持ちを言葉で表現していただきたいと思っています。

本日のCommencementで、まさに新しく始まる皆さんの人生が幸福で素晴らしいものになることを心から願って、私からのお祝いの言葉とさせていただきます。

令和3年3月24日
大阪府立大学学長 辰巳砂 昌弘