大阪府立大学

2018年度 学位記授与式式辞

更新日:2019年3月25日

はじめに

昨年は、大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号と立て続けに大きな天災を受けました。特に台風21号のときには、キャンパスにある大木が数多く倒壊し、さらには関西国際空港の閉鎖により、教職員や学生の渡航そして帰国にも大変大きな影響を受けました。この場をお借りして被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

3月に入り気温が上がり、春がやってきました。キャンパスの桜も皆さまの卒業・修了を祝うかのように蕾を膨らませています。

本日、ここに多数の来賓の皆さまにご臨席を賜り、学位記授与式を挙行できますことを嬉しく思います。

卒業・修了される皆さま、おめでとうございます。“高度研究型大学―世界に翔く(はばたく)地域の信頼拠点―”大阪府立大学を代表して、お祝いの言葉をお贈りします。皆さまの成長を願いつつ、ここまで励ましてこられたご家族そして指導してこられた教員の皆さまにも併せてお慶び申し上げます。

さて、本日の式典において“あみだくじ”と人生の話をします。最初に“あみだくじ”について触れ、私の経歴を振り返り、“あみだくじ”に例えてみます。最後に大阪府立大学でのまなびと皆さまの“あみだくじ”について語ってみたいと思います。

あみだくじ

皆さまは“あみだくじ”をご存知ですよね。多くの縦の平行線の下に「当たり」「はずれ」などを書き、予めそれらの縦の平行線の間に横線を入れ、はしご状にします。さらに、上と下の関係が分からないように一部の平行線を隠します。各自が上のはしを選択したら、隠した部分を見えるようにして、交点が来たら曲がりながら、下へ下へと線を辿ります。

横線のある位置やくじの結果を隠す(一般に「下半分を隠す」)ため、英語では足のない幽霊にたとえるのか Ghost Leg lottery と呼ぶそうです。また、くじを引く人に「一本 横線を加える」ことを許す場合もあります。この一本の横線が、くじの行方を二者の間で入れ替えるのはご存知の通りです。二本・三本と横線が増えると、複雑に結果が入れ替わりますが、引いたくじに対しては、必ず一つの結果となります。

ここにおられる皆さまは“あみだくじ”を使ったことがありますよね。

“あみだくじ”と人生

昨年、ジャーナリストの竹内政明さんが読売新聞コラム欄「編集手帳」に“あみだくじ”に関することを書かれていました。「人生はふとした横線で進路が入れ替わる」ということですが、本日は、このコラムを参考にして式辞をまとめました。

私は、高校生時代に数学が好きで、将来、数学の先生になりたいと思っていました。そこで「数理工学を学ぼう」と受験勉強し、幸いにして、希望通り合格しました。ところが周りにいた友人たちの数学に対する興味と能力に圧倒され、進路を変えることにしました。それが、今思えば、最初の横線だったような気がします。

すでに就職していたある大先輩から「これからは ハードウェアよりソフトウェアが重要になる」という話を聞いて、システム科学という学問を専攻しました。システム科学とは、狭義には(わかりやすくいうと)コンピュータの応用技術です。1978年に、民間企業に入り、ソフトウェア製品を作る部署への配属希望を出しました。ところが、希望ではない神奈川県にある研究部門に配属になりました。ここでは、私の進もうとしていた“あみだくじ”の方向に、会社が引いていた横線があったのでしょうね。

入社6年が経ち、社費留学の推薦を受けましたが、英語の試験で不合格になりました。ここでは自ら横線を書き損ねたようなものです。ところがその数年後に、上司の強い勧めにより米国ピッツバーグで学ぶ機会を得ました。書き損じていた横線を上司が代わりに書いてくれたと考えています。

帰国して、家族が5人になっていたこともあり、1987年に川崎市にマンションを購入しました。「落ち着いて研究に励もう」と思った途端に関西への転勤を命じられました。「自宅を購入したところでもあり、辞退したい」と申し出ましたが、受け入れてもらえず、最終的に子供を転校させ転居せざるをえませんでした。これも私の引いた“あみだくじ”に横線があったのだと思います。

関西で8年勤めた頃、「バブル経済がはじけた」という理由でオフィスが閉鎖となり、神奈川県に単身赴任することになりました。「当社にいる限り、もう関西に戻ることはない」と上司に言われ、今後の人生に迷っていたときに偶然(誘われたわけでもなく、知人がいたわけでもなく、たまたま学会誌の公募情報を見て略歴や業績などの調書を送った結果、面接を経て)、大阪府立大学に採用されました。偶然としかいいようがない横線だったのです。

2002年に民間企業の社員から大学教員になって、「これで定年まであと15年間も若い大学生と一緒に勉強ができる」と張り切っていたところ、その後もいろいろな横線が入り、フランスやカンボジアをはじめ多くの人と出会い、彼らに影響を与えたり彼らから影響を受けたりしながら、学士課程教育改革の目玉でもあった現代システム科学域の設立に携わり、その後、副学長を経て学長になっている次第です。

大阪府立大学でのまなびと“あみだくじ”

さて、皆さまの人生は本学に入学されるまでどうだったでしょうか。まっすぐに進んだでしょうか。本学で学んでいる間はどうだったでしょうか。入学時に想定していたように本日を迎えているでしょうか。4月からの人生はどうなっていくでしょうか。

ここにおられる皆さまは それぞれ行き先のわからない“あみだくじ”を引いていて自分で横線を引いたり、周りの人々に横線を書かれたりしながら、今日この場にいるのではないでしょうか。

ここには、希望して入学された方も不本意ながら入学された方もいるでしょう。選んだクラブ活動が自分に適していて活躍された方も、何らかの理由があって途中で退部された方もいるでしょう。ゼミ配属・研究室配属において希望が通ったこともあれば、通らなかったこともあるでしょう。それらが自分の判断や能力で決まったこともあれば、他人との関係で決まったこともあるでしょう。

このように考えてみませんか。大阪府立大学は皆さまの“あみだくじ”に多くの横線に出会う機会、そして、自ら横線を引く機会を与えた。初年次ゼミだったかもしれない。卒業研究だったかもしれない。副専攻だったかもしれない。リーディングプログラムだったかもしれない。サークル活動だったかもしれない。留学だったかもしれない。

教職員や先輩・後輩を含むこの大阪府立大学があなたの“あみだくじ”の進路に横線を与えた。逆に、あなたが友人の“あみだくじ”の進路に横線を書く機会もあった。気づいていないかもしれないがそして大きいか小さいかは別にして、人生を変える横線が大学のあちこちにあったのではないかと考えてみませんか。

少し目を閉じて思い出してみてください。

私の教え子の中の何人かは、横線が入ったときにそれを全力で消そうとしたり、そのすぐ下に横線を一本加えてもとに戻ろうとしたりしていたことを思いだします。“あみだくじ”の下に確かに自分の思う「当たり」が書かれているならそうするべきです。これらの学生には、私の考え方を伝え続けました。

一方で、ボランティアをしたり海外に出かけたりすることで、自ら別の方向へ横線を書こうとする学生も多数いました。彼らは彼らが変わるだけでなく、私の行動にもよい影響を与えてくれました。こんな学生が多数いて、私は大阪府立大学の学生のことを心から誇りに思っています。

おわりに

皆さまの人生は、幽霊の足のように先が見えない“あみだくじ”を引いているようなものと考えてみましょう。人生においては、“あみだくじ”の先端が「当たり」か「はずれ」かなど誰にもわかりません。

ですので、拒否できない横線はしなやかな態度で受入れ、“あみだくじ”の先が少し見えれば、したたかな手を打ってでも自ら横線を入れるという姿勢(努力)をもってください。自分の力ではどうしようもない横線が必ず入りますが、それを受け止めてさらに自分のためになる横線を引いてください。

横線を書くにあたっては、一人だけで書こうとせず、調べたり教えを乞うたり「学び続ける」姿勢を持ち続けることで、横線を書く力を養い続けてください。

そして、いずれは皆さまの周囲の方に良い影響を与えるために、その方々の“あみだくじ”にも横線を入れてください。私の友人のジョージア大学のTiwana博士は、「自分の Influencer は誰で、Influencee は誰だ」ということをよく話します。本日の私の話でいうと、「自分の“あみだくじ”に横線を入れてくれたのは誰で、誰の“あみだくじ”に横線を入れようとしているのか」という風に理解しています。

(“あみだくじ”のコラムを書いた)竹内さんは書いています。「辛い」という漢字に横線が入ると「幸せ」になると。今この場で掌に書いてみてください。「辛い」が「幸せ」になるのがわかりますか。将来、辛いことがあったとき、あるいは、“あみだくじ”を引く際、本日の私の話を思い出して、皆さまが「人生」にどう対応するかを考えていただけるなら、それは私にとってこの上ない喜びです。

最後になりますが、この4月に私たちは公立大学法人大阪市立大学と法人統合を行います。この流れの中にあっても、私たちは 「高度研究型大学―世界に翔く(はばたく)地域の信頼拠点―」として誇りある大阪府立大学の伝統を残します。その支援策の一つとして「つばさ基金」を設立しています。本日も 皆様のお手元に資料をお渡ししています。この資料をご覧いただき、近い将来 ご協力を賜れば幸いです。どうぞよろしくお願いします。

以上をもちまして、4月から始まる皆さまの新しい生活における飛躍を期待して式辞と致します。本日は、おめでとうございました。

2019年3月24日
学長 辻󠄀 洋

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