大阪府立大学

2018年度 入学式式辞

更新日:2018年4月6日

はじめに

今年の桜の開花は記録に残っている限りでは最もはやく、自慢にしているキャンパスの桜は、皆さまを待ちきれなかったかのように満開を過ぎ、すでに若葉を出し始めています。

入学試験に合格されて、ここ大阪国際会議場におられる新入生の皆さま、またご家族の皆さま、ようこそ大阪府立大学へ。

多くのご来賓をお迎えし、このように盛大な入学式を挙行できることをとても嬉しく思うとともに、大阪府立大学を代表しまして、皆さまを心より歓迎いたします。

「入学おめでとうございます」

本学の理念は「高度研究型大学―世界に翔く(はばたく)地域の信頼拠点―」です。3つのキャンパスがありますが、中百舌鳥キャンパスは文字通り鳥の名前「百舌鳥」がついた地、羽曳野キャンパスは大和武尊が亡くなって白鳥になって飛来し「羽を曳くように飛び立った」という伝説の地、そしてりんくうキャンパスは国際便が毎日多数発着する空の玄関の近くにあります。まさに“はばたく”というイメージがふさわしいキャンパスを有している大学です。そして、教育・研究・地域貢献活動において「多様」「融合」「国際」という三つの視点を大切にしています。

この式辞では、理念に含まれる“翔く”(はばたく)に関連した“風”を題材に三つの問いを絡めて、お話をしたいと思います。

平昌五輪の風

まず一つ目の話は、スポーツと風に関することです。私が大学に入学したのは1972年です。今から46年も前のことになります。札幌オリンピックが開催されたときで、入学試験前に夢中になってテレビを見ていました。中でも「日の丸飛行隊」と言って、スキーのジャンプ競技で日本が金・銀・銅の3つのメダルを独占したことに日本中が歓喜しました。

皆さまは、今回の平昌(ピョンチャン)オリンピックをテレビで見ましたか?フィギュアスケート、スピードスケート、カーリングといろいろな競技で手に汗を握りましたよね。ジャンプ競技をテレビで見ていた方も多いと思うのですが、どうでしたか?入学試験の前でそれどころでなかった方もおられたかもしれませんね。

私はスキーのジャンプ競技で「金メダルを獲るのではないか、同一競技で複数メダルもあるのではないか」とワクワクしながら実況中継を見ていました。すると、風のために競技が頻繁に中断したのです。距離を伸ばすには向かい風が良いらしいのですが、追い風になったり風が止まったり、また向かい風になったり、頻繁に方向が変わっていました。スターターは、風をみて旗を振っていました。向きだけでなく、風の強さも頻繁に変わり「風が強くなるとジャンプのスタート台を下げ、弱くなると上げる」という調整を行うことを知りました。つまり、選手たちにとってジャンプ台から“翔こう”(はばたこう)にも環境は平等ではありませんでした。

この勝負においては、風の移り気な影響が大きかったのではないでしょうか。風のイタズラともいうべき影響については、百メートル走の桐生選手が10秒を切ったときにもよく紹介されました。「風を読む」ということばもありますが、イタズラ好きの風に背中をおされたり足をひっぱられたりするのはスポーツの世界だけでしょうか?

スキージャンプの話に戻って、競技終了後のインタビューでは、(ワールドカップで優勝が続いていたにもかかわらず)銅メダルを獲得した高梨沙羅選手も、(冬季オリンピック最多8回の出場を誇るにもかかわらず)メダルを逃した葛西紀明選手も同様にオリンピックに参加できた喜び、そして今後の抱負(意気込み)を話されていました。大会当日まで力一杯の準備を重ねてきたという満足感で、不運だった風のことを受け入れられたのではないでしょうか。そして、そのうえで将来を見て、さらなる飛躍の夢を語っていたのではないでしょうか。

我々は、このことから何を学びましょうか?

ノーベル文学賞の歌詞の風

次に話を音楽に変えて、二つ目の問いに入ります。既に一昨年の話になりますが、ボブ・ディランという米国の歌手がノーベル文学賞を受賞しました。私の世代では、とても人気のある国際的なシンガーソングライターで、スウェーデン・アカデミーによるノーベル賞の受賞理由は「米国の歌の伝統において、新たな詩的表現(詩としての表現方法)を創造した」ということでした。中でも有名な曲が「風に吹かれて」という曲で、1962年に作られています。人間同士の争いの愚かさを風刺したものですが、「どれだけ争いをしたら終わるのか」という問いに対して、その答えは「風に吹かれている」というものです。

昨年亡くなられた端田宣彦さんの曲「風」は、この曲に影響を受けたと言われています。北山修さんが作られたその曲の詩には、夢に破れたり失恋したりしたときに“何かをもとめて振りかえってもそこにはただ風が吹いているだけ”というフレーズがあります。

日米の二つの曲はどちらも素晴らしいメロディで、この場で口ずさみたいぐらいなのですが、その一方で詩で語られていることについては何ともいえない「やるせなさ」を感じたことを覚えています。

我々は、ここでいう「風」をどう理解しましょうか?

(注釈)“ ”内は、はしだのりひことシューベルツ「風」より引用

匂いを運ぶ風

では、三つ目の問いに入ります。一昨年に梅田のグランフロントで「次のイノベーション人材を養成する」と題したシンポジウムを行いました。シリコンバレーに派遣した学生の代表が多数の参加者を前にして「行ってよかった。テレビで見たり、本を読んだりしただけでは わからないことがあった。シリコンバレーには、一種独特の匂いがあるのです」という報告をしていました。

シリコンバレーはアメリカ西海岸にあり、そこに全世界から多様な人が集まり、アイデアを融合して起業しています。ベンチャー企業が多数生まれたエリアの通称ですが、さて、皆さまは場所に「匂い」があると思いますか?どうなのでしょう。

IT(情報技術)を専門にしてきた私は、何度かシリコンバレーに行ったことがあり、「匂いがあるのです」という彼の表現に深く共感を覚えました。それととともに「匂いがあるとはどういうことか」を深く考えさせられました。確かに、そこで行われている仕事・勉強のやりかた・流儀、さらには服装や食事などに独特の風俗があると思います。他の地域で見られるものとは違うのです。ときに理解することが難しい習慣もあります。それらをシリコンバレー風と言うと、ここに“風”(かぜ)という文字が出てきます。

皆さまが卒業された学校にも「校風」があったのではないでしょうか?匂いは風によって運ばれますが、彼の言う匂いとはこの“風”(ふう)のことではないでしょうか?文化と言ってもいいのかもしれません。

調べてみると「府大風に馴染む」「府大風の国際交流」などの用法があります。皆さまは、本学に入学された以上好むと好まざるにかかわらず、大阪府立大学の“匂い”を身につけてほしいと思います。

では、大阪府立大学風(ふう)の“匂い”をつけるということはどういうことでしょうか?これが三つ目の問いです。

答えは一つではない

今、「風」に関連して、三つの質問を行いました。私の質問に対して、どんな答えでもいいのですが、皆さまは自分の答えを持てるでしょうか。ここでは、私なりの考えをお話ししますが、皆さまも「風」を感じた時、ぜひ皆さまなりに考えてほしいと思います。答えは一つではありません。

二つ目のボブ・ディランさんの歌詞に出てきた風の話「答えは風の中に吹いているだけ」は、「問題解決をあきらめよう」ということではなく、「絶対的な正解はない。だからこそ、自分たちで考えるしかない」ということだと私は理解しています。実世界の問題、特に相反する利害を持つ関係者が複数いる場合などには、問題に対する解が人によって異なっていたり、たとえ利害が同じであっても解が時によって変わったりするのです。皆さまがこれまで受験勉強で学習してきた問題の大半には、正解が一つはっきりとありました。「人やときやところによって解が変わる」ということはありません。

一方で、皆さまが入学後に遭遇する問題、特に卒業研究や学位論文でとりあげる問題、さらには大学卒業後に取り組む実世界の問題には、必ずしも普遍的に正しい解があるとは限りません。同じ問題でも「とき」と「ところ」によって解くための条件が異なることがあり、一度解いた答えを再利用できないこともあります。ですので、答えを知ること・覚えることに集中するのではなく、自分の前にある「問題の本質は何なのか」や問題解決に向けて「どう発想すべきか」というプロセスを幅広く学んでください。入学試験に合格した専門領域だけではなく、総合大学である大阪府立大学に入学したことを自身の強みにするために、いろいろな講義・いろいろな先生から、今ある問題、さらには過去にあった問題、そして将来の問題は何なのかをよく学んでください。

三つ目の「大阪府立大学風」ですが、府大生のイメージについては就職先の人事部門から「伸びしろがある」「困難があっても逃げない」「実践力がある」「祭りごとが好き」などという高い評価を得ています。昨年の日経の調査によると、全国大学総合ランキングで9位に位置づけられています。我々の誇りとするところです。入学後には、本学のいろいろなイベントに参加して先輩や地域の方など多様な人と交流したり、本学独自の副専攻や海外交流プログラムに積極的に参加したりして、異文化を理解しグローバルに活躍するというマインドを身につけてください。

府大風の学びの活動には大学をあげて応援します。幅広い学びを行うマインドを持ち、異分野の人や海外の人と一緒になって問題解決を経験し、「融合」という視点を持ってください。そのためのプログラムも多く用意しています。

最初の問いに戻りましょう。今回のオリンピックにも見られたように、いくら努力を重ねていても、その結果はたまたま吹いている風の向きや力に影響を受けてしまうことがあります。皆さまの努力についても、今までも運・不運があったでしょうし、きっとこれからも風の影響を受けるでしょう。それでも今回のオリンピックの選手のインタビューを聞いていると、たとえ金メダルがとれなくても「結果は風次第」と言えるところまで努力し成長しておくことが大切だとわかります。

そして、風は常に向きを変えますし、力も変わります。自分の好まない風のときは「しなやかに」吹かれてやりすごし、ときが来るまでは「したたかに」準備を重ねておき、「今だ」というときに力強く自分の望む世界へ翔(はばた)けるようしておいてください。

まとめ

本学の理念「高度研究型大学―世界に翔く地域の信頼拠点―」について、「風」を題材に話しをしました。これからの人生において風を感じた時に、本日の私の話を思い出して、「生涯にわたって学び続ける力」を備えてくれることを期待しています。

最後になりますが、先日、大阪府議会、大阪市会で議決された公立大学法人大阪市立大学との法人統合について簡単にお話しします。本学の歴史は130年以上におよびますが、その歴史はさまざまな学校の統廃合の歴史ともいえます。2005年に大阪府が運営する三大学を統合して法人化したほか、2011年に大阪府立大学工業高等専門学校を法人傘下におき運営しています。来年度に新たな法人の元で二大学一高専を運営することになります。その後、これらの歴史の中で培ってきた伝統を大切にして、魅力ある新大学の設置をめざしていくことを誓いますので、大阪府立大学に入学された皆さまは心配せずに勉学に励んでください。

それから、ご家族の方にお願いとお知らせです。私たちは、学生の海外派遣・留学支援、クラブなどの課外活動に対する支援策として、ふるさと納税制度を活用した「つばさ基金」を設立しています。ご協力を頂ければ幸いです。

また、明日(7日)の「府大花(さくら)まつり」に、中百舌鳥キャンパスへ見学にいらっしゃいませんか。残念ながら多くの桜は満開を過ぎていますが、教職員・学生・近隣の方々による多くの楽しい企画を用意しております。大阪府立大学風を知るよい機会だと思います。

同じく7月までの木曜日の午後に開催する公開講座「関西経済論」では、松井一郎大阪府知事、竹山修身堺市長を含め、各界の著名な方のお話を聞くとともに、ぜひキャンパス内の図書館、食堂などをお楽しみいただけますので、お申し込みいただきたいと思っています。さらに5月には、友好祭と呼ぶ大学祭にあわせて保護者の方のためのオープンキャンパスを企画しています。これらの機会に学生で活気あふれるキャンパスの“風”をぜひ知ってください。お待ち申し上げます。

以上をもちまして、本日から始まる皆さまの新しい生活における飛躍を期待して式辞と致します。本日は、おめでとうございました。

2018年4月6日
学長 辻󠄀 洋

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