図書館

図書館だより 大阪府立大学付属図書館報 第12号

「図書館だより 大阪府立大学付属図書館報 第12号」に掲載されている長尾文庫に関する記事を紹介します。
(組織や職階等の名称は、当時(1982年)のものになります。)

社会福祉学部の発足について

庄谷怜子(大阪府立大学名誉教授)

今度大阪府立大学の一学部としてスタートする社会福祉学部図書室からの御挨拶と図書室の紹介をさせていただくことにいたします。

図書室の特色

大学における社会福祉の教育、研究は戦後急に発展することになり、そのための文献・資料の蓄積はどこの大学にもなく、自力で収集するしかありませんでした。しかも社会福祉文献の出版そのものが戦後に始まったような状況で、今日のように「福祉もの」が盛況を呈し、書店の一角を占拠するようなこともなく、そのため短大創設当初の教員や図書館司書の方々は一方ならぬ努力をされ、関係者の御遺族から蔵書を譲り受けられたり、関係機関の倉庫を探しまわり、寄贈をお願いしたりの苦労をされたようです。今日までに、短大図書館が故人から譲り受けた文献は次のようなものです。昭和27年から29年にかけての大山哲雄氏の寄贈になるものは分散収納されていますが、昭和35年の「川口文庫」(川口義明氏=元兵庫県労働研究所長)は「労使関係論」を中心に約1207点、同35年の「木村文庫」(木村友三郎氏=元神戸大学法学部教授)は「労働法」を中心に約1326点、昭和36年の「南條文庫」(南條茂氏=元大阪府西野田第1方面書記)は「社会事業」を中心に約300点、および昭和39年の「長尾文書」等、以上は「文庫」扱いでまとめて保管されています。これらはいずれも貴重な文献でありますが、ここでは「長尾文書」について紹介したいと思います。

「長尾文庫」は短大名誉教授堂面秋芳先生が兵庫県労働運動史編纂を行われた関係で、社会運動・労働運動の戦前資料のうち,全日本海員組合の機関紙編集に携っておられた長尾桃郎氏所蔵の文献資料を短大に譲り受けて下さったものです。この文書の内容は大正末期から昭和10年頃にわたる社会・労働の両運動に関する文献、調査報告、新聞スクラップ、労働関係通信、無産政党・労働組合などの機関紙およびビラその他印刷物など合計2000点で、その特色の一つは左翼諸団体による発禁出版物にあり、もう一つは労働組合などによる各種文書(ビラ、ポスター、機関紙)に大別されるものであります。「長尾文庫」については短大機関誌「社会問題研究」14巻3号(1964.8)に堂面教授の紹介記事があり、「戦前の言語に絶する苛烈な弾圧、取締のもとで、当局の目をかすめての資料の収集・保存は困難をきわめた」とのべられています。「長尾文書」は関係分野の研究者から貴重な社会的財産として高く評価されており、学外からも度々訪問利用されています。労働組合における文書保存は戦後必ずしも第一義的な関心をもたれているとはいい難く、なかでも戦災によって、また戦後の混乱の中で、貴重な資料が散佚、消滅したことも多いことを考えると、堂面教授も述べられているように、このような人民の抵抗を綴る資料は歴史遺産としての重みをもっています。「長尾文庫」は図書館の2本の保管庫に収納されていますが、一片一片のビラの分類や、裏打ち等の保存方法を含めて慎重に取扱われています。

なお戦前の社会事業資料は厚生行政関係資料として存在している場合が多く、創設当時の研究スタッフは各都市自治体の関係部局をまわられて、古い公文書類から社会事業史や厚生事業関係資料を熱心に発掘、収集されたということです。著名な大阪市社会部資料の一部がそのようにして収録されています。また、法政大学大原社会問題研究所の資料は大阪では府立夕陽丘図書館に収録されていますが、おそらくその周辺ないし重複部分が短大図書館に若干量保存されているのも、こうした資料収集活動の一端にかかわることかもしれません。これについては大原社研の主力資料とも関連づけてはやく整理しなければならないのですが、なお未整理の部分が少なくありません。

これまでみたような戦前から戦後前半期の貴重な資料の外に、戦後急速に発展したわが国の社会保障社会機福祉関係文献はほぼ系統的に収録されており、戦後30年の短大図書館の努力によって、社会保障、社会福祉等の専門文献の整備・充実において、西日本で一定の役割を果せるようになっています。学部図書室のこれからの課題は、(1)国際的な学会動向をふまえて、外国文献の充実、(2)社会福祉の専門的図書館としての独自分類の検討、(3)開架式の導入、(4)公開方法の検討ならぴに、(5)前述の貴重な未整理文献の整理などにあろうと私は考えています。

資料室について

つぎに、短大図書館には昭和30年頃から資料室が附設されています。戦前から戦後にかけての激しい社会変動と戦後社会の解放的な雰囲気と占領軍の民主化政策のもとで、労働組合が簇生し、地方自治体も労働研究所、産業研究所、農業研究所等を育成し、精力的な調査・研究が行われました。当時こうした研究所には資料室が設けられることが多く、大学等の研究機関にも資料室をつくることが一種の風潮であったと堂面教授も述べられています。賃金間題や労働者状態についての調査・研究の成果が蓄積され、相互に交換され、収集されて利用される、こうした資料活動は当時全国の大学にも波及しています。短大の現服部学長の御努力で、そのような流れの一環として社大にも資料室が設置され、当時兵庫県労働研究所の資料室で活躍されていた堂面教授が社大に就任されるとともに、資料室の運営を指導されることになりました。

短大資料室には社会問題、社会福祉関連分野の専門的雑誌数百種と新聞、機関紙、パンフレットが定期刊行物として収録されています。不定期資料も寄贈、交換、購入によって収集され、その内容は社会福祉の専門分野に集中しているので、他大学、研究所の分類方法を参照、検討しつつ、昭和43年以来、社大資料室の独自分類により整理されています。産業用ロボット隆盛の時代に、図書館機能のコンピューター化も必然の流れであり、社会福祉の分野でも相応の対応をすべきことは勿論でありますが、しかしそれと平行して、この分野ではなお「手工業的」資料室活動が当分重要な位置をしめるでしょう。

社会福祉学における資料の重要性は、この学問が応用社会科学であり、総合の学問である上、実践科学でもあるという性格から、なま資料の収集・分析がまず必要である点にあります。またこの学問は若い学問分野であり、開拓的側面をもちますが、資料についてもその時々に新しい対応が必要になってきます。この分野は行政とのかかわりも深く、国および地方自治体の機関が作成した通達類、官庁報告書統計資料類にたえず目配りをし、系統的に収集活動をする必要があります。それに社会福祉の現場実践との結びつきも重要で、福祉関係施設、病院、関係団体などから刊行されている現場資料(ケース記録、処遇方法、処遇組織、財政運営等)の把握も必要であり、これら資料を組織的系統的に収集するとともに、内容分類をした二次文献資料を作成したり、研究活動を援助することも、今後、資料室活動の目的となるでしょう。

社会福祉学は、法学や経済学と較べて、学問の性質と学問発展の段階が異なるが故に、情報・資料の組織的提供が著しくおくれています。他大学や専門図書館との情報交換や分業体制も緒についたばかりであり、全国的組織的に二次文献資料の編集が行われる域にまで到っておりません。したがって資料室として他に代替、補足するものがほとんどありませんので、十分な資料の整備をしておかねばなりません。現段階で、資料の相互利用やスタッフの養成をする場合にも短大資料室は一定の役割を期待されています。

この春から社大図書館は学部図書室として府大図書館に統合され、それにともなって資料室は名称は変わるとしても、図書室の資料部門として位置づけられ、これまでの伝統を受け継ぎ、ともに一層の発展をはかることになるでしょう。「図書館だより:大阪府立大学附属図書館館報 1982.3.31 第12号」(筆者:社会福祉学部教授)