大学案内

平成26年度入学式式辞

2014年4月6日

おめでとう

奥野武俊学長の写真

 本日、ここに多数のご来賓、教職員、ご家族をはじめとする関係者のご臨席のもとに、平成26年度の入学式を挙行できますことを感謝します。大阪立大学に入学された、学士課程1,389名、大学院博士課程735名、合計2,124名の皆さん、おめでとうございます。

 大阪府立大学を代表して、歓迎します。また、この日を心待ちにしてこられたご家族や、関係の皆さまにも、心からお祝い申しあげる次第です。

 今年の大阪の桜は、寒かった冬の気候のためか、一気に開花し、皆さんの入学を祝ってくれているかのように咲いています。桜は、受験という厳しいハードルを越え、新しい希望に胸を膨らませている皆さんにふさわしい花かもしれませんね。多くの植物は、最初に緑の芽を出し、つぎに葉が茂り、それから花が咲いて、その後に実がなりますが、桜は、厳しい寒さを耐えた後、葉が茂る前に美しい花を咲かせます。本日の皆さんの喜びを表しているかのように感じます。

学問すること

 本日から皆さんは、大阪府立大学で新しい学びを始めることになりますが、その学びのことを「学問する」と言います。学士課程の新入生にとっては、小学校から高校までの学習で「勉強する」という言葉を使ってきたと思いますので、聞き慣れない言葉かもしれませんが、この漢字は「強いて勉める」と書きますので、「本当は気が進まないことでも、頑張って努力すること」を意味するのだと思います。これまでの学びは、そのようなものだったでしょうか。「必ずしも強いられてしたわけではない」という方もおられることでしょうが、とにかく、受験という目標に向かって努力してきたことには間違いないでしょう。

 一方、学問という漢字は「問いを学ぶ」と書きます。誰かに強いられることなく、“なぜだろう”とか、“どうしてだろう”というような問いを発することによって、学ぶことを表しています。この「学問」という日本語は、かなり古い時代から使われていたようで、例えば、吉田兼好の「徒然草」の中にも学問の力について論じたところがあります。彼は「学問をすれば、自分を誇らず、友と争うべきでないことが分かる」と説きました。その時代にはこの言葉は、人間の修養や社会を治める知識を意味していましたので、日本では長い間、学問することは「自分を謙虚にし、まわりの人を大切にすることになる」と考えられてきました。特に、江戸時代における「学問」は論語を学ぶこと、それを通じて人間形成のための知恵を学ぶことを重視していましたので、それが日本文化の礎となっているのです。

 日本は、明治維新の時に西洋文明を短期間のうちに取り入れて近代化しましたが、新しい文化や技術を受け入れ、発展させるための素地はすでに形成されていたのです。当時の日本では、「学問」することが社会システムのひとつになっていましたので、その結果は、例えば識字率が非常に高かったことに表れています。ある資料には、18世紀の日本では80パーセントの人が“読み書き”ができたと書かれています。当時のロンドンで30パーセント、パリでは10パーセントと言われていますので、驚きの数値です。

 もちろんヨーロッパにおける学問のレベルはかなり高く、日本はそれを学んだのですが、当時のヨーロッパでは、エリート教育は進んでいたにも関わらず、庶民教育にはほとんど関心が無かったことが、このような識字率の違いに表れていると考えられています。幕末に西洋の技術や文化が急激に入って来た時に、それを受け止める力が当時の日本にあったのは、「学問」することが武士などの一部の人たちだけでなく、庶民にも広がっていたことも要因だったのです。

大学における学問

 もちろん、近代の教育システムが確立された現在、私たちが大学で使う場合の「学問」という言葉は、体系化された知識やそれを活用する方法論を意味しており、自然科学、社会科学、人文科学などの総称のことを言います。大学において、このような学問をすることが、皆さんがこれからの社会を豊かなものにしていくためにとても重要なことなのです。

 ただ、ご存知のように18世紀に始まった産業革命をもたらした蒸気機関などの多くの産業機械は、当時の大学が生み出したわけではなく、一部の発明家によってつくられました。新しい機械の動く原理を説明する理論は大学で学べましたが、人間に利便性をもたらすための機械を開発したわけではありませんでした。

 明治維新の頃に、イギリスで学んだ山尾庸三は、当時の日本では工業がほとんど発達していなかったにもかかわらず、「工業を進展させるための人材を養成する学校が必要である」と政府に提言し、富国強兵を進めるためにすぐに役立つ工業技術と同時に、その基礎になる数学や物理、化学などを学ぶための工部大学校という学校をつくりました。これが後に東大の工学部となりました。このようなことから大学に工学部をつくったのは、日本が最初だったとも言われるようになっています。とにかく「社会や人生に役立つ学問」という考え方は、日本の文化に合っていたのだと思います。

 その後、時がたって、経済の高度成長期と言われた1960年から70年代にかけて、大学では専門性を高めるための知識をいかに獲得し、自分の将来の仕事に有用なスキルを身につけるかということが大切にされました。さらに、1980年代以降になると、我々のまわりの知識量が急速に増えて膨大になり、学問領域は細分化され、そのためにいろいろな新たな問題が明らかになってきました。

 最近、私たちのまわりに起こる問題は、非常に複雑なことが絡んだことばかりですから、あるひとつの専門知識を持った人で解決できることはありません。直面する多くの課題は専門分野にこだわらないメンバーを集めたチームをつくって対応しなければなりません。つまり、これからの時代に生きるあなたには、専門性の高い学びだけでなく、幅広い分野における知識と問題の全体を見渡せる俯瞰力が必要で、高い教養を備えたリーダーになることが期待されているわけです。本学は、そのような現代のニーズに対応できるように、学問する方法も、学生の学びの方法も変えてきました。

新しい大学院における学び

 本学が、学士課程教育に“学域制”を導入したのは3年前のことですが、このような流れの中で考えられたことでした。最近の研究における例をお話ししますと、獣医と物質化学、福祉と栄養、言語文化と情報、植物生産と経営などで専門分野を超えた共同研究が教員だけでなく学生たちの授業にも取り入れられているのは成果の表れと言えるでしょう。

 このような働きをさらに推し進めるために、この4月から「リーディング大学院」と呼ばれる、新しい大学院のプログラムが開始されます。これは、新しい時代にふさわしい大学院の形成を目的に文部科学省が推進しているプロジェクトのひとつです。問題の全体を見渡せる俯瞰力や、新しいアイデアを生み出せる独創力を備えた博士課程の学生を育てようというものなっており、大阪市立大学と共同申請して採択されたものです。このプログラムのタイトルは「システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム」というのですが、ここに“システム”という言葉が使われていることに意外な感じを持たれるかたがおられるかもしれません。これが、何度もお話ししている最近の学問に必要なことを端的に表しています。ナノ技術を基本とする新しい物質の開発などにおいても、それが使われているシステム全体を見渡せる力が必要なわけです。これから学ぶ学問の守備範囲を広げるような、いわばグローバルな教育研究活動は、きっとあなたにワクワクするものを与えてくれると思います。学士課程の新入生にとっては、まだ先のことと思われるかもしれませんが、大学で行われるこのような教育研究活動を知っていただき、夢を持っていただきたいと思っています。

 広島県に住んでいる私の友人に、野菜や果物を有機農法でつくっている方がいるのですが、最近会う機会がありました。その時彼は「化学肥料を使わないで、元気な植物を育てる時にもっとも大切なのは、それを支えるための土をできるだけ深く掘って柔らかくすることだ」と言っておりました。それによって、野菜や果物本来の強さを発揮することができ、たとえ雑草が生えても、農薬を使わなくて大丈夫だと言うのです。

 私は、皆さんが大阪府立大学で育つために、やわらかい土壌となる学びの場をここに提供したいと思います。強く育って、美しい花を咲かせ、立派な実を実らせてください。

おわりに

 最後になりますが、本学と大阪市立大学との統合問題が話題になっており、ご心配をおかけしています。この間、両大学と大学の設立団体である大阪府や大阪市との間で話し合いを持っていますが、ご存知のように大阪市議会の動きなどに大きな影響を受け、当初言われていた計画の通りには進んでおりません。もちろん、今年度入学される皆さんに直接影響することはありませんが、今後の動きについては変化があり次第、できるだけ早くお知らせするつもりです。とにかく、大学の統合問題の話がどのような形で進んでも、本学がこれまで歩んできた歩みを止めることはありませんし、大阪市立大学とは既に様々な形で連携を深めています。

 大阪府立大学は、「高度研究型大学 ―世界に翔く地域の信頼拠点―」を大学の理念として掲げています。これは、高度な研究を行っている大学という意味はもちろんのこと、高度な専門知識を得ることだけでなく、自分で問題を見つけて、考えて結論を導き、社会を牽引して行く人を育てることを意味しています。

 今日から始まる新しい生活における飛躍を期待して、式辞といたします。

学長  奥野 武俊