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平成25年度 学位記授与式式辞

2014年03月24日

学長 奥野武俊
平成25年度学位記授与式

おめでとう

 今年の冬は例年になく厳しい寒さと雪が続きましたが、ようやく桜の便りが聞かれるようになってまいりました。本日ここに多数のご来賓のご臨席を賜り、平成25年度の学位記授与式を挙行できますことを感謝申し上げます。

 卒業・修了される皆さん、“おめでとうございます”。成長を見守りながら喜びの日を心待ちにしてこられたご家族をはじめ、教職員や関係の皆様にも、本学を代表してお祝いと感謝を申し上げます。

大学の歴史と伝統

 さて、本学にとって今年度は特別な年でした。これまで何度もお話してきたことですが、今から130年前、1883年につくられた大阪獣医学講習所という小さな学校が本学の原点となっていますので、皆さんは、特別な年に卒業・修了されることになったわけです。

 私は、この130年の歴史を振り返って、そこに流れてきたもの、ずっと変わらずに底流となっているものは何かを考えてみました。ここでは三つのことを取り上げて、皆さんがそのような流れの中で成長してきたことと、またそれらを次の世代に引き継ぐ力と責任があることをお話ししたいと思います。

ニーズに応える

 まず、第一は「ニーズに応える」ということです。これは、明治のあの混乱期に「社会や地域の必要」に応えるべく獣医学講習所をつくったということに表れています。当時の大阪では、馬や犬などの動物を診療できる人材を育てることが急務でしたから、その必要に応えるためにこの学校がつくられました。このときから、地域社会の「ニーズに応える」、それが本学の底流に流れ始めました。

 大阪府立大学は、いつも社会全体のことだけでなく、自らのまわりの必要性を察知して、時には早すぎるかもしれないと言われながらも、それに応えようとしてきたと思います。

 学生達が中心になって運営されたものの一例をあげてみますと、知的障がい者に大学の講義を提供する、いわゆる「大学オープンカレッジ」が1998年に始められたこと、3年前の東日本大震災のすぐ後に、地域や大学の防災問題を考えるための学生組織がつくられたことなどです。最近は、どこの大学でも行われていますので、そのスタートがここにあったことはあまり知られていないかもしれません。

チャレンジを恐れない

 第二は、そのような必要に応えるために、「チャレンジを恐れない」ことです。私たちは、自分のまわりや社会が必要としていることにたとえ気づいても、それに応じてすぐ行動に移すとは限りません。人の根底には変化を恐れる心があり、現在の状態を維持しようとする保守的なものがあるのかも知れませんが、大阪府立大学は、いつも新しい大学として歩みだすチャレンジをしてきました。2005年に大阪女子大学、大阪看護大学と一つになるという大きな課題に取り組みました。また、学びの領域を広げることを一つの目的として2年前に開始された学域制という新しい教育システムも大きなチャレンジで、現在も進行中のものです。

 新しいものにチャレンジして、創造的な活動をするためには、前に踏み出す勇気が必要であり、時には苦しみや痛みが伴います。大阪府立大学の今日の姿は、それを受け止めてくださる人たちによってつくられてきたのです。

 このような大阪府立大学の歴史の底流にあることを実現するときに大切なことを考えてみましょう。

希望の一本松

 昨年開催された、第43回東京モーターショーに、少し変わったオブジェが飾られていました。それは鋼板でつくった松の木で、「希望の一本松」というタイトルがつけられていました。2011年3月11日に東日本を襲った、あの大きな地震と津波は多くのものを破壊しましたが、陸前高田市に「奇跡の一本松」と呼ばれた松の木が残ったことを覚えておられることと思います。

 東京モーターショーを開催するにあたって、自動車の関連14社の代表が集まって話し合ったとき、自動車の製造会社には鋼板の溶接や切断の技術者を育てる必要があることが話題になり、その技術者を集めて記念のオブジェをつくることになりました。そのオブジェをつくる人も、見る人も、希望が持てるものとして選ばれたのが、あの松の木の10分の1レプリカでした。各社から集められた技術者は、最新の技術で松の木を3次元計測し、寸分たがわぬ模型づくりが開始されました。私は、その様子をテレビ番組で見たのですが、鉄でつくったものだとは信じられないほど精巧な模型が出来上がりました。ところが、チームの人達は、当初は自分たちが現場で使っている最新技術を使って正確な縮尺模型をつくればいいと考えていたのですが、出来上がったものを見て、どうしても“何かが足りない”と感じました。彼らは「これでは、見た人に感動や希望を与えることはできない」という結論を出し、せっかく完成した模型を壊して、最初からやり直す決心をしたのです。時間の限られている中を、チームのメンバーは、何度も現地に通って、写真ではなくて、周りの海や山、空と共にある松の木を見ながら考え直し、議論しながら、もう一度つくりました。その結果出来上がったものは、実は、本物とは微妙に違うもので、完全な縮尺モデルではありませんでした。

 チーム全員が、このオブジェの目的は「これを見た人が希望持てること」、「自分たちの気持ちを正しく伝えること」であることを考えると、どうしても完全な縮尺模型にはならなかったというのです。

 彼らは、オブジェをつくるテーマを決めるときに、自分達が働いている自動車会社の必要性や、震災が襲った社会の必要性を見つめて「一本松」を選び、「希望」というテーマを人々に伝えることにしました。そして、それを実現するために、技術者にとって最も大切と考えてきた正確さや緻密さ、ある意味ではプライドをも犠牲にする勇気を出してチャレンジし、オブジェ本来の目的を達成しました。

大学が持っている力

 大阪府立大学の底流を流れている第三番目のことは、「学問を大切にする」ことです。大学ですから当然のことと言われるかもしれませんが、大学は、気の合う人達が集まって趣味を楽しむところではなく、人間が永い歴史の中で得てきた知識を体系化して学ぶ場を提供するところです。教育・研究を通して真理を探究し、その成果を社会に還元し、産業を支え文化を築くところです。それを見える形にするためには時間がかかることが多いばかりでなく、場合によっては見えないものになります。大学は建物ではなく、人によってつくられる有機体だと思います。ですから、大学にはそこに集う人に力を与え、励まし、時には疲れている人を癒す力があるのです。

 私の先輩に、ある化学系の会社の工場長がおりました。彼は、あるとき、取引会社に新しい製品を納める約束をして、寝る時間も惜しんで頑張ったのですがうまく行かず、納入の期日が迫ってきました。もがき苦しみ、疲れ果ててしまった時、ふと「大学に帰ってみよう」と思ったそうです。でも、大学に行って、かつての教授に相談してみようと思った訳では無かったと、笑いながら言っていました。誰かに相談しても簡単に答えを得ることは出来ないと分かっていたからです。彼は、緑豊かなキャンパスに帰ってきて、懐かしいキャンパスの空気を味わい、ゆっくりと歩き回りました。残念ながら、その時は何の奇跡も起きることなく帰宅しましたが、数日後、夢の中で“常温”という言葉を聞いたのだそうです。その製品を作るためには、高温・高圧が常識的であったらしいのですが、彼は、その日の朝早く出勤して、これまでのやり方を覆す常温での実験をすぐに試して成功させ、結果的に契約の期日を守ることができたということでした。

 その先輩は、私に言いました。「大学には力がある。その力はもちろん知識やアイデアとして表現されるのが普通だ。しかし学問するところにだけ生まれる、見えないものがあることを君は知っているか? 大学には私のアイデンティティがあるので、私を励まし、時には癒してくれるのだ」と・・・

 皆さんには、本日から新しい世界でニーズに応え、チャレンジを恐れないで頑張ってくださることを期待していますが、どこかで疲れたり、つまずいたりすることがあるかもしれません。その時、大学に帰ってきてください。あなたのホームベースはここにあるからです。

おわりに

 最後に、繰り返しになりますが、本日、卒業・修了される皆さんは、大阪府立大学の底流にある「ニーズに応えること」、「チャレンジを恐れないこと」、「学問を大切にすること」という流れの中で育ってきました。ですから、あなたにはこれを生かして前進する力があります。大阪府立大学で育ったあなたにはそれができます。

 私たちは、皆さんが引き継いでくれたものを、さらに成長させて行きますので、今から5年、あるいは10年経った時に、どのようになっているかを見に来てください。それはあなたの責任のひとつであると申し上げて、帰って来てくださるようにお願いしたいと思います。大学は生きているので、きっと新しい体験があるはずです。

 皆さんのご活躍を期待して、式辞とさせていただきます。

学長  奥野 武俊