大学案内

平成25年度入学式式辞

2013年4月6日

はじめに

理事長・学長 奥野武俊

 本日ここに、多数のご来賓、ご家族、関係の皆様のご臨席のもと、2013年度の入学式を挙行できますことを感謝し、式辞を申し上げます。今年度、大阪府立大学に入学された、学士課程、大学院博士課程合計2,237名の皆さん、おめでとうございます。本学を代表して、皆さんを歓迎します。また、この日を心待ちにしてこられたご家族や関係の皆様にも、心からお祝い申しあげる次第です。

大学における学び

 皆さんは、今日から始まる新しい大学生活にどのような期待を持っておられるでしょうか。それぞれの夢を実現するために、新しいことにチャレンジしながら、充実した日々を送って下さるように願っています。

 大学合格を目標にして勉強してこられた新入生の皆さんは、これまで、できるだけ多くの知識を吸収するということに集中し、さまざまな例題を解いてみることが多かったのではないかと思うのですが、大学では、学ぶべき課題を自分で考えながら、私たちのまわりにある複雑で、しかも簡単には答えを見つけることができないような問題に取り組むことになります。そのためには、これまでのように知識を吸収する受動的な学びから、自ら考える能動的な学びに、その姿勢を変えていかなければなりません。

 鶴見俊輔という哲学者は、学びの姿勢を変えることを説明するために、“学ぶ”という意味のlearnにunという否定を表す接頭語をつけて、unlearnという言葉を使いました。これは、“知識を捨てる”というような意味なのですが、彼はこれを“学びほぐす”と訳しました。彼がハーバード大学の学生だった時に、ヘレン・ケラーと会うチャンスがあって、その時彼女に 「I learned many things, and I had to unlearn many things.」と言われたことを紹介しています。ヘレン・ケラーは、その時ハーバード大学の姉妹校であったラドクリフ女子大学で学んでいたのですが、彼女は、「多くのことを学んだけれど、また多くのものをunlearnしなければならなかった」と言ったというのです。

 これから大学で、“学ぶ”ことを楽しみにしておられる皆さんに、learnとは逆のunlearnということを話題にすると、驚かれるかもしれませんが、鶴見俊輔は、“学びほぐす”ことを「一度編んだセータをほどいて、そのほどいた同じ糸を使って自分の必要に合わせて別のものを編む」と説明しました。また彼は「大学で学ぶ知識はむろん必要だ。しかし覚えただけでは役に立たない。それを学びほぐしたものが血となり肉となる」とも言いました。私が皆さんにお話ししたかったことは、このことです。これまでに得た知識も、これから学んで獲得する知識も、本当の意味で自分のものとしなければならないのです。
昔は、専門的な知識を多く獲得し、それを速く処理することが競われたこともありましたが、最近は、得られた知識を“いかに使うか”、とか“いかに豊かな発想ができるか”が問われるようになっており、知識を吸収するだけの学びから、自分自身で考え、それを言葉で表現できるように、学びの姿勢を変える必要があるのです。

 このようなことを、言葉で説明するのはとても難しいのですが、学士課程の1年生に用意されている、初年次ゼミナールという少人数による授業科目は、このような、学びの姿勢を変えることを体験できる科目になっています。このことを、大学では“学びの転換”と呼んでいます。ぜひ楽しみながら、大学における学びを深めていただきたいと思います。大学院に進まれる皆さんには、同じような科目は用意されていませんが、高度で専門的な知識を自分のものとして使うためには、やはりこの“学びほぐす”ことが重要であることを強調しておきたいと思います。

知識情報の伝達方法

 大学において得られるこのような学問的な知識は、どのようにして獲得され、継承されてきたのでしょうか。
現在の形に近い大学が、世界ではじめて出来たのは12世紀、イタリアのボローニアという町でした。学問することを希望する学生達が集まって組合を作り、教師を雇用して大学が始まりました。今のように、大学が学生を集めたのではなくて、学生たちが教授を集めたのです。そして、学生達は自分の学びたい学問ができる場所を求めて、ヨーロッパ中のいろいろな国を移動して学びました。もちろん、当時の大学における公用語はラテン語でしたから言葉の問題は無く、簡単に国境を越えることができました。そして、得られた知識情報を誰かに伝えるためには、記憶として蓄えて口頭で教えるか、あるいは羊皮紙に手書きしたものを見せるしかありませんでした。しかしながら、このような知識情報の伝達方法を大きく変え、その結果、大学のありかたも変えてしまうことが15世紀に起こりました。

 それは、グーテンベルグが新しい印刷技術を発明したことでした。知識情報を書籍として残すことが出来るようになり、その技術が広がるに伴って、それまで学ぶべき大学を求めて国を超えて移動していた学生達はその必要がなくなり、ヨーロッパの大学は大きく変わりました。グーテンベルグによる印刷機の発明は、知識情報の伝達方法を変えただけでなく、大学のあり方にも大きな影響を与えたのです。

 それから今日まで、学問に必要な知識情報は講義や書籍などを通して得られることが普通になりましたが、最近になって再びこの知識情報の獲得・伝達方法に大きな変化が起こっています。それは、1990年代から現在もまだ飛躍的に進展しているインターネット通信技術です。皆さんは、これをごく普通に使っておられると思うのですが、今やこの技術を使うことによって、誰もが自分の望む情報を極めて容易に、しかも大量に入手できるようになりました。

 これは、私たちの生活様式を変え、社会を変えるものになり、やはり大学における学びにも大きな影響を与えています。みなさんは、このような社会に生きて、得られた知識を自分のものとして使わなければなりませんので、先ほどお話しした“学びの転換”が必要であり、その上で、大量な情報から真に重要で必要なものを峻別できる力も必要となります。

 この力は、“複雑化した社会を総体的に認識する力”と言っていいかもしれません。例えば、環境問題におけるエネルギー問題の解決には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーやリサイクル技術のような要素技術の開発だけでなく、それらの技術の最適な組み合わせを実現するためのマネジメントや、市民の負担に対する合意形成、効果的な政策や広報の手法など、非常に多くのことを同時に考えなければなりません。ひとつの専門的な知識だけでなく、あらゆる角度から物事を見つめる広い視野が必要です。

 本学が、昨年4月から始めた新しい教育システムの“学域制”はそのような力を育てることを一つの目的として開始され、今年は2年目になり、本日皆さんを迎えているわけです。

お伝えしたいこと

 ここで、どうしても触れなければならないもう一つの問題があります。それは、皆さんやご家族が心配しておられるであろう、大阪市立大学との統合問題についてです。

 ご存じのように、二つの大学の設立団体である大阪府と大阪市は“大阪都”になることを目指しており、大学も一つにすることが課題になっています。そのために、新大学構想会議が設けられ、そこから出された提案に沿って、両大学における具体的な検討が開始されることになっています。二つの公立大学は、それぞれに長い歴史を持って発展してきた大学ですから、それらを生かし、学生にとって魅力ある大学、大阪にとって大切な大学を目指して検討を進めています。このことにより本日入学された皆さんに決してご迷惑をかけることはありませんし、皆さんの学業・進学は大阪府立大学として保障しますので、どうぞご安心ください。

おわりに

 今年は、あなたにとって大阪府立大学に入学したという特別な年になりましたが、実は、本学も“創基130年”という特別な年を迎えます。本学は1883年(明治16年)に設置された獣医学講習所が淵源になっており、今年は130年目になりますので、これを“創基130年”と呼んで、記念の事業を行うのです。11月にはホームカミングデーを開催して卒業生をキャンパスに招き、また、留学生と日本人学生が一緒に活躍できる国際交流会館(仮称)を来年の3月に、キャンパスの中に完成する予定です。さらに、つい先日(4月1日)は、“I-siteなんば”と呼ばれる新しい大学の拠点を難波にオープンしました。是非、機会を作って訪れていただき、大阪府立大学の新しい風を感じてみてください。

 最後にもう一度、今日から新しい生活を始める皆さんを祝福してエールを送ります。大学は、あなたを成長させる学びの場です。ここで獲得した知識を自分のものとし、それを自由に使える人になってください。あなたの学びが新しい世界を開き、豊かな生活をもたらすことを期待して、式辞といたします。

学長  奥野 武俊