大学案内

平成24年度入学式式辞

2012年4月6日

おめでとう

理事長・学長 奥野武俊

 日ごとに暖かい日ざしが強くなり、桜の季節となりました。本日ここに、大阪府知事をはじめ多数の御来賓の臨席を賜り、2012年度の入学式を行うことができますことを心から感謝し、お慶び申し上げます。本日、大阪府立大学に入学される学士課程1482名、大学院課程760名の皆さん、おめでとうございます。皆さんは本日から、大阪府立大学を構成する大切な一員です。大学を代表して、心から歓迎します。また、この日を心待ちにしてこられたご家族をはじめとする関係者の皆さまにも、お祝い申し上げる次第です。

新しい出発

 さて、ご存じのように大阪府立大学は、この4月から新しい学士課程の教育システムで新入生を迎えています。これまで7つの学部で編成してきた体制を4つの「学域」と呼ぶ形・・・現代システム科学域、工学域、生命環境科学域、地域保健学域・・・に変更しました。これは、最近の社会が必要としている人材養成に応えることを一つの目的として、従来の学問区分より広い範囲の学びのプログラムを提供し、学士課程の教育を充実させようというものです。

 学士課程に入学される皆さんは、この新しい体制における第1期生になります。ただ、皆さんの先輩は、すでに学部体制で入学されていますので、しばらくの間、大阪府立大学の学士課程には、学域と学部という2つの教育システムがあり、さらに大学院の課程があるという形になります。本日は入学式ですから、学士課程ばかりでなく、大学院課程へ進学する方も多数おられます。大学院において専門性を深めると、教育と研究を簡単に分けることのできない環境で学ぶことが多くなりますが、それを生かした学びを深めてほしいと願っています。

文系と理系の交差点

 さて、何十年も前、私が学生だった頃の日本は、経済の高度成長期と呼ばれ、限られた専門分野を「いかに深く学ぶか」がとても重要で、しかも与えられた課題を「いかに早く処理できるか」が競われる時代でした。そのために、高速コンピュータの開発が盛んに行われました。しかしながら、最近のように複雑化した社会で活躍することが期待されている皆さんには、大学における学びによって「何ができるようになったか」とか「いかに豊かな発想ができるか」などが問われるようになり、しかもそれを自ら把握しながら学ぶことが要求されるようになっています。さらに、限られた専門分野だけでなく、広い分野の学問に対する知識を持ってコミュニケーション能力を高めることが重要課題になっています。

 もともと大学というところは、それを構成するメンバーである教員・職員・学生が協働して建て上げるものですが、この新しい教育システムは今、始まったばかりですから、皆さんと一緒に建て上げていく必要があると思っています。そこで、皆さんに考えてほしいことをいくつかお話ししたいと思います。
まず、基礎体力のような、基礎学問をしっかりと学ぶことが大切であることを強調したいと思います。オリンピックなどで活躍する世界的なスポーツ選手は、突然、強靭な体になるわけではありません。毎日単調な繰り返しで、時には辛い基礎練習から体を作っていくのです。学問もやはり同じで、何よりも基礎が大切です。この時期を通過すれば、応用問題に進むことができます。
そして、次に期待されることは、自分の専門領域以外のものにも目をむけて、問題を俯瞰的に見る能力を高めることです。特に、大学院に進学する方にはこのことをお願いしたいと思います。
ともすれば、専門性の深さに閉じこもってしまうかもしれませんが、これを忘れないでほしいと思います。皆さんがこれからどのような学問分野を学ぶにしても、いくつかの分野が重なるようなところが大切であることを言いたいのです。

 米国のアップル社を作り、Mac、iPad、 iPhoneなどを世に送り出し、昨年亡くなったスティーブ・ジョブズという方を知っておられることでしょう。彼は、「文系と理系の交差点」という言葉を使って、文系と理系の学問が融合する場所が大切であることを指摘しました。皆さんがよく知っているレオナルド・ダ・ビンチは、最後の晩餐とかモナリザなどを描いた有名な芸術家(画家)ですが、工学者の間では、ヘリコプタを最初に考えた人とか、川の流れの中で渦を最初に観察した人として有名です。高校では、文系と理系を区別したクラスで学んできたかもしれませんが、大学における学びの場では、スティーブ・ジョブズの言う「文系と理系の交差点」に立てるように学んでください。

グローバル化社会

 大阪府立大学で学ぶ上で、もう一つ大切なことがあります。それは、現代社会がグローバル化しているという問題です。私達をとりまく社会環境や、日々の生活に用いる製品やサービスなどは、すべてがグローバルという波にさらされ、狭い世界や専門領域に閉じこもってはいられなくなっています。例えば、皆さんや私が持っている携帯電話は、米国やフィンランドの会社が考え出して、イスラエルやインドで設計され、タイやベトナムで部品を作って、中国で組み立て、日本の会社が販売している・・・かもしれません。毎日の生活の中では、どこで作られたかを意識することは無いと思いますが、多くのものがボーダレスの中で動き、国境は問題にならなくなっています。

 もっと典型的なものは、大学で行われる学問、そこで得られる知識・・・「学知」と呼ばれますが・・・これには全く国境がありません。そこでは、競争と革新が絶え間なく生まれ、それを加工し、使いこなし、人々に伝え、みんなで共有することが重要になります。つまり、先ほどお話ししたように、知識を獲得するだけでなく、それを積極的に使いこなすことが大切になるわけです。このような社会は、知識基盤社会と呼ばれていますが、皆さんはグローバル化した社会の中で、それに対応していかなければなりません。
そのためには、当然のことながら、いわゆる国際化のことを考える必要があります。少し前までは、国際化するということを、あたかも、何でも英語にするとか外国のシステムを取り入れることのように言われたこともありましたが、もちろん、そのような意味ではありません。ただ、英語は今や世界の共通言語になっていますから、国境の無い世界でコミュニケーションするためには、当然の道具だと考えなければなりません。最近の就職においては、多くの企業が国籍を問わずに採用しています。つい先日、入社式を英語で行っている会社が報道されていましたが、今や特別なことではありません。

 このことを前提にした上で、グローバルな社会に対応するために最も重要なものは、多様性を受け入れる能力だと思います。コミュニケーションを豊かにするためには、言語だけでなく異なる文化を受け入れ、考え方の違う人との交流を深めて、相互の信頼関係を創り出すことが重要だからです。自分だけの狭い世界に閉じこもらないで、国家や民族を超えたところで共通の価値を創り出すことが大切です。それを実現するために国際交流を進め、多様性の高い環境を大学の中に創ることが必要だと考えています。

国際交流の例

 大阪府立大学が取り組んでいる例を少しだけお話したいと思います。上海にある華東理工大学は、以前から連携を進めている大学ですが、実は、そこで「中日学院」と呼ばれる新しい学科が昨年9月に誕生しました。その学科の学生は最初の2年間、華東理工大学で基礎学問と日本語を学び、日本語で専門教育が受けられるように訓練します。そして3年生になった時に、大阪府立大学に編入するための試験を受けて府立大学生になり、卒業します。すると、日本と中国の二つの大学の学位を取得できることになります。これはダブル・ディグリーと呼ばれるシステムで、最近いくつかの大学で実施されるようになっています。本日の入学式には、この新しい試みを共に進めていく華東理工大学の副学長・Yu先生と、その関係の先生と学生達が出席しています。後ほど、英語で挨拶していただくようにお願いしていますが、学生のための教育プログラムは日本語で行われます。

 また、府立大学からフランスに留学して、同じようなダブル・ディグリーを得るプログラムも行われており、皆さんの先輩には、フランスで修士の学位を取得した方もいます。この場合はもちろん、フランス語です。さらに、今年はベトナムやラオスなどから大学院に入学し、博士の学位取得を目指している方もいます。この方達は、ほとんど英語によるコミュニケーションで教育・研究が行われることになるでしょう。このようなことを通して、国際交流は英語だけの問題ではないこということも理解していただけると思います。

大学という学びの場

 皆さんは今日から大学生、あるいは大学院生として、どのような生活を期待しているでしょうか? 私の友人に、東京で小学校の先生をしていた方がいるのですが、ある時、彼は都心の学校から郊外の学校に転勤しました。新しい小学校は、東京では珍しい裏山のある自然のとても豊かな所だったので、彼はクラスの子ども達をそこに連れて行って、「今日はここで遊びます」と言ったところ、子ども達は、遊び道具が何も無いためどのように遊ぶのか戸惑い、何もできなかったというのです。
私は田舎で育ちましたので、子どもの時には木登りをしたり、隠れ家を作ったりすることが当たり前でしたが、東京の子ども達は、そのような経験をする場所も無くて、戸惑ったのでしょう。彼はその事実に驚きながら、何度も子ども達を裏山に連れ出して、木登りや小鳥の観察をさせ、食べられる草などを教えたそうです。その結果、子どもたちはすぐに裏山での遊びを楽しめるようになりました。鬼ごっこやかくれんぼのルールをその時に自分達で決めながら、新しい遊びを作るようになったそうです。
このような裏山には、ディズニーランドにあるような人を楽しませるメニューはありませんし、ミッキーマウスもおりませんが、自分達で遊びを創り出す楽しみや喜びを経験していったのです。友人の話によると、子どもたちが最も喜んだのは、裏山にある食べられる草を使って料理をした時だったそうで、しかも箸を使わずに手で食べることだったそうです。

 もしあなたが、大学に満ちているエネルギーを感じ取り、そこでまだ形になっていないものを見える形にする心を持っているなら、新しいものを自分で創り出すことができます。スティーブの言った「理系と文系の交差点」に立って、何か新しいものを考えてみようと見まわしてくださるならば、何かに出会うことができるはずです。そこで、グローバル化した社会を牽引していける人に成長してください。

 今日から始まる、新しい生活があなたにとってワクワク、ドキドキするようなものとなることを期待して、式辞とさせていただきます。

学長  奥野 武俊