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平成23年度 学位記授与式式辞

2012年03月23日

理事長・学長 奥野武俊
平成23年度学位記授与式の写真

おめでとう

 春の雨は、ひと雨ごとに冬に別れを告げ、新しい芽の息吹を知らせてくれています。本日、ここに多数のご来賓のご臨席を賜り、2011年度の学位記授与式を挙行できます事を、心から感謝し、お慶び申し上げます。本日、卒業・修了される皆さん、おめでとうございます。本学を代表して、心から祝福します。皆さんが、このような喜びの日を迎えることが出来ましたのは、成長を願いつつ励まして来られたご家族や、友人、教職員の支えがあった結果だと思います。心から感謝し、ここにご臨席いただきました皆様にも、お祝いを申し上げる次第です。

大きな社会変化

 さて、すこし振り返ってみますと、1年前の3月11日に東日本を襲った、あの大地震や津波による惨事、さらに続いた福島第一原子力発電所における事故のことを忘れることは出来ないでしょう。あの大災害を契機にして、世界中の人から寄せられた多くの支援や励ましが、大きな力になることを実感したことと思いますが、1年経った今でも、まだ先の見えない状況の中に置かれている方がおられることを考えますと、心の痛む思いでいっぱいです。被災された皆さんが、一日も早く、希望が持てる生活に戻られることを願い、たとえ小さな支援であっても継続して行かなければならないと思っています。このたびの災害は、被災地から遠く離れている大阪のような所にも大きな影響を及ぼしました。限られたエネルギーに関する問題や、同じような災害がいつ自分の周りで起こるかもしれないという防災に対する問題を考えて、ライフスタイルを見直さなければならないことが指摘されています。

科学技術の発展

 また、このたびの地震という自然災害を考えますと、自然の持つ大きな力の前に、なすすべを見いだせなかったのですが、一方で、人間が開発してきた技術や社会の脆さを露呈することにもなりました。いわゆる“人的災害”の側面が強かったという指摘です。
人間は、長い時間をかけて、自分達の生活を便利にするためにさまざまな道具を開発してきました。その道具は、人間が持っている多くの能力を機械化することで作られてきました。開発された道具を使って、今日の豊かに見える社会を築いてきたのです。つまり、人間が持っている、手足、口や耳の能力、さらに、見たり考えたりする能力は、蒸気機関、自動車、電話、テレビ、コンピュータなどにより機械化されてきたのです。このような科学技術の進展は、学問分野を細分化し、それぞれの分野において集中的・精力的に研究を行うことで加速的に実現しました。そして、今や、人間にとって便利な道具を開発することは、“行きつくところまで行った”と言われています。しかも、私たちの科学技術を開発する興味と、それを進める力は、あたかも止める事ができないかのように、進展し続けており、ついにある一線を超えたように見えます。それは、人間が持っている能力ではなくて、人間の存在そのものに関わる問題、すなわち「命」を技術で扱うようになったことです。よく知られているクローン技術や、遺伝子操作などはそこに位置づけられると思います。皆さんはこのような科学技術の進んだ社会に生きており、これからの時代をリードする役目を担っています。そのためには、皆さんがこれまで大学で学んだことを、どのように使って行くべきかをよく考えなければならないと思います。

一人で解決できない問題

 このような状況で、皆さんに考えていただきたいことを、二つお話ししたいと思います。まず、第一は理系、文系、医療系、福祉系・・・というこれまであなたが学んできた学問分野だけでは解決できない問題が増えているということです。最近生じる、大規模な問題のほとんどは、限られた分野の専門家だけでは解決できない状況になっています。先程お話しした、原子力発電所の事故に対する対策は典型的な問題だったと思います。あの時、原子力の専門家だけを集めても、決して解決策をまとめることはできませんでしたから、様々な分野の知識や技術が必要であることを、イメージしていただけることと思います。
では、ひとりの人が広い分野の学びをすべきでしょうか。確かにそれが必要な時代になっているのですが、ひとりの人がどのように頑張っても、学べる量は限られていますから、このような問題解決には、エキスパートが集まってチームを作る以外に方法がありません。多くの人が協力し合って解決にあたる時に最も重要なことは、それぞれの人が自分の限界を認め、他人に対しても、問題に対しても謙虚であることでしょう。自分の考えだけを主張するだけでは決して問題解決を進めることはできません。
ここで、さらに重要なのは、チームをまとめるためのリーダーが必要だという事です。これからの社会を牽引していく皆さんには、このようなリーダ―になることが期待されています。本日卒業・修了されるあなたには、ぜひ自分が学んできた専門領域を少しでも広くすることに目を向け、問題をできるだけ俯瞰的に見れるように努力をして、ある時はエキスパートとしてチームに参加し、またある時は、そのチームをまとめて行くことを心がけていただきたいと思います。

得られた知識や技術

 第二に大切なことは、あなたが得た知識や技術を、自分だけのものにしないということです。学問することによって得られた、いわゆる「学知」は、決して自分の狭い領域に留めてはならないのです。
今から400年以上も前のことですが、1592年にYi Sam Pyeong (イー チャム ピョン:李参平)という、韓国では非常に有名な白磁器を作る、優れた技術者が九州の佐賀県にやって来ました。彼は、磁器を作るために適した土を求めて探し回り、佐賀県の有田東部の山で良質の土を発見しました。そこで白磁器を作り、日本独自の技術へと進展させました。それが、「有田焼」です。この焼き物は、非常に素晴らしいものでしたので、有田の近くの伊万里港から各地に出荷され、国内だけでなく海外でも広く知られるようになりました。その結果、様々な技術交流が行われて、ここで開発された技術は目覚ましく発展しました。たぶん多くの方は「伊万里焼」を知っておられると思いますが、それはこの作品が伊万里港から出荷されたので、「伊万里焼」として知られるようになったためです。

 ところが、佐賀県には、ほぼ同じ技術で特別な焼き物をつくるところがありました、それは「鍋島」と呼ばれました。当時の佐賀にあった鍋島藩は、この素晴らしい技術で作った焼き物を将軍家や天皇家に献上するために、ある特別な村を作りました。技術が漏洩しないように、人の出入りを厳しく制限した村です。その結果、確かにすばらしい技術は継承され、「鍋島」と呼ばれる焼き物はとても高価なものになりましたが、残念ながら技術交流は行われなかったために、伊万里焼のように世界に羽ばたくことは無く、技術が進展したり広がったりすることはありませんでした。長い間、技術漏洩を防いできましたが、あるときそれが破られ、別の場所にもたらされたと言われています。現在でも優れた「鍋島焼」を目にすることは出来ますが、これは明治から大正時代にかけて復活したものだそうです。
得られた知識や技術を、ため池のように貯めるだけで、その技術を広げず交流しなければ、必ず衰退し、いずれ滅びる時が来ます。自分が得たものを惜しみなく他の人に知らせ、そこで交流を行うと、新しい技術につながっていきます。新しいものを生み出すためには、人に与えることが必要なのです。もしあなたが真に豊かな力を得たいと思うならば、あなたの持っている力を、決して自分だけのものにしてはいけません。自分が持っている素晴らしいものは、そっと大切にしておきたいという誘惑にかられるかもしれませんが、新しいものを生み出すためには、それを与える勇気が必要です。これからの社会を牽引するために、あなたが得たものを他の人に知らせ、交流をして欲しいと願っています。

あなたの使命

 皆さんには、今日から新しい世界で、大阪府立大学で得たものを最大限に生かして、活躍してくれることを願って、二つのことをお願いしました。繰り返しになりますが、一つはリーダーになる道で、自らの限界を認める謙虚さを持つことであり、もう一つは、学んだ知識や技術を、独り占めしないということでした。
私はこれを、大阪府立大学を卒業・修了される皆さんの「使命」として伝えたいと思います。使命のことを英語でMissionと言いますが、この言葉はラテン語の「送り出す」を意味する mittereから生まれた言葉だそうです。本日、皆さんを送り出すにあたってふさわしい言葉として、伝えたいと思います。そして最後に、この「使命」という漢字のことを考えて終わりたいと思います。使命という漢字は“命を使う”と読めます。身を削っていくことを意味するようなことと感じられ、とても厳しく聞こえるかもしれませんが、ぜひ、これからの社会を牽引するために考えていだきたいと思います。

 大阪府立大学で育ったあなたの活躍を期待して、式辞とさせていただきます。

学長  奥野 武俊