大学案内

平成23年度入学式式辞

2011年4月6日

はじめに

理事長・学長 奥野武俊

 本日、ここに多数のご来賓、教職員、ご家族をはじめ関係の皆さまのご臨席のもとに、2011年度の入学式を挙行できますことを感謝申し上げます。今年度は、学部生1,534名、大学院生746名、合計2.280名の皆さんを大阪府立大学に迎えることが出来ました。本学を代表して歓迎のご挨拶を申し上げます。また、この日を心待ちにしてこられたご家族の皆さまを始め、関係者の皆さまにも、心からお祝い申し上げます。

大震災

 さて、3月11日に東北関東地方を襲ったM9.0の大地震のために、本日私たちが挙行している入学式を中止したり、延期することにした大学は132大学になったそうです。本日の新入生の中にも被災地出身の方がおられます。
式辞の冒頭ではありますが、いまもなお行方不明となっている方や、避難所での不自由な生活を余儀なくされている方が多数おられる事、今日も懸命に復旧活動が行われているニュースを考えますと、ここで、皆さまと共に短い黙祷の時を持たせていただき、亡くなられた方へのお悔やみの気持や、苦しみの中におられる方に対するお見舞いの気持ち、そして日本だけでなく世界中の方の心が一つになっていることなどを表明して、この式典を続けたいと思います。ご賛同いただけますならば、恐れ入りますが、ご起立の上、黙祷をお願いします。

ありがとうございました。私たちにできることは、いま自分に与えられている使命に全力を傾け、必要な時に必要な助けをすることだと思います。大阪府立大学もそのための準備をしていますので、その際には、ご協力をよろしくお願いします。

心からの歓迎

 さて、改めてここで、皆さんが大阪府立大学を選び、本日の入学式を迎えられたことを感謝し、お祝い申し上げます。今日から始まる新しい学びの生活を、豊かで充実したものとなるように私たちは全学で支援します。大阪府立大学が、さらにすばらしい大学となるように皆さんにも頑張っていただきたいと思います。

 ご存知のように、最近は大阪府立大学のことが、何度もマスコミに取り上げられるようになりました。もちろん大学の活動状況をこれまで以上に発信するように心がけているためなのですが、もうひとつの理由は、大学改革が行われていることにあり、そのために皆さんにも心配をかけたのではないかと案じています。ただ、すでに説明していることですが、今年度入学される皆さんはこれまでと同じ7つの学部・研究科による教育体制で学んでいただきます。それは皆さんが卒業するまで保障されますのでご安心ください。来年(平成24年)4月からは「学域」「学類」と呼ばれる新しい体制に移行し、教育内容などを大きく変えることになっていますが、これについての詳しいことは、入学してからお話しするチャンスがあると思います。

 とにかく、本日から、4年(獣医の場合は6年)、あるいは大学院へ進学する方ですと2年、場合によっては5年間を大学で過ごすことになります。昔は、大学のことをある適当な年月を過ごして社会に出て行く、いわゆる、人生の通過点と考えられましたが、今は、生涯の人生設計に組み込んでいくようになっています。先日の新聞に、アメリカのカンザス州立大学では、<Not Four Years, But Forty Years>という言葉が掲げられているとありました。これから始まる日が、あなたにとって、楽しくて心をワクワクさせるような時となり、あなたの人生を支え続けるような大阪府立大学でありたいと願っています。

これまでの社会の変化

  さて、皆さんが生れ育ってきた20数年以上少し昔のことを考えてみましょう。1950年代から20-30年の間、日本経済は非常に恵まれた時期で、高度成長期と呼ばれました。皆さんは日本経済の絶頂期に生まれ、バブル経済の崩壊と呼ばれる激動の時に育ってきました。この間に、高校・大学の進学率は驚異的に伸び、偏差値による大学選びが一般化して、予備校・塾がとても盛んになりました。
経済が成長期にある時は、いかに多くの知識や情報を得て、それをいかに速く処理するかが重要でした。知識や情報を持っているかどうかが、人の生き方を大きく左右したのです。ところが、経済の安定期を過ぎると、知識や情報は、誰でも簡単に持てるようになりましたので、知識の量や、処理の速さではなく、持っている知識や情報をいかに使うかが大切になっています。そのために、大学では何を学ぶかではなくて、学んだ結果どのようになったかが問われるようになっています。
皆さんは、このような社会で活躍していくとこになります。大学や大学院で、学問をし、研究することを通して、ものごとを創造的に考えて、それを表現できる人になり、どのような困難に出会っても、様々な工夫をしながらそれを乗り越えて行く人になってほしいと思っています。このために、私が日頃から重要だと考えている3つの言葉についてお話ししたいと思います。それは、Interest、Inquire、Imageで、頭文字はすべてIなので、3つのIと言えば覚えていただけるかもしれません。

3つのことば

 まず、最初はInterestです、これは誰でも知っていると思いますが、興味を持つと訳される言葉です。私たちのまわりにある様々なものに対して、興味を持ったり、好奇心を持つことは、学問する上で非常に大切ですが、最近の教育調査などによると、多くの子どもは、色々な物に対する興味や関心が薄く、科学に関する本を読んだりすることが少ないと言われて、少し心配しています。皆さんはいかがでしょうか?もし、このInterestという言葉を、もう少し広い意味で考えて、スポーツでも、音楽でも、あなたの好きなこと・・・と考えればいかがでしょう?
皆さんには、これから大学で学ぶ学問や、その基礎となる科学について、興味を持ってほしいとは思いますが、そのためには、あなたが楽しいと思う事をまず伸ばすことが大切だと思うのです。好きになれないことに大きな努力を払うのはとても大変です。これまでは受験という目標があって、もしかするとあまり好きでなかったものも乗り越えてきたかもしれませんが、これからはあなたの好きな事、興味のある事に力を注いでください。そこから、新しいものが生まれてくるに違いありません。それが、まだわからないという人もいるかもしれませんが、焦らなくてもいいと思います、大学で出会う仲間や教職員との交流を通して、見つけていけばいいのです。

 次は、Inquireです。これは質問するとか、問いかけるという意味ですが、学問の面白さを発見できる鍵はこれにあると思います。学ぶことの基本は、「観察する」事だと思いますが、ただ漫然と眺めているだけでは、観察するとは言いません。物事をじっと見つめて、何かの変化を感じ取り、そこに何かの法則を見つけて質問したり、疑問を表現することが大切です。これを私は、Inquireと言いたいのです。

 例えば、動物園に行くと、色々な動物が食べたり、遊んだりしています。「かわいいな・・」とか、「おもしろいな・・」と感じて楽しむことが第一の目的ですが、北海道の旭川市にある「旭山動物園」の職員は、少し違いました。アシカを観察していると、横に動くより縦(深さ)方向に非常に速い速度で泳ぐ特徴があるとか、ペンギンは雪の降った日に隊列を組んで歩き出す性質があることなどを見つけて、それをお客さんに見てもらうことにしました。その結果、日本中の動物園のあり方を変えてしまいましたね。動物を見せるのではなくて、動物の生態(生き方)を見せるとことにし、動物園にイノベーションを起こしました。これが、社会を変えていく力です。そのキッカケは、観察して問いかけるInquireでした。

 最後はImageです。日本語でイメージと言われるこの言葉は、心に思い浮かべることとか、ある問題について想像することを意味します。これを豊かにしてほしいと思います。繰り返しになりますが、まず何か興味を持つものを選んで観察し、その時、感じる疑問を言葉にしてみる・・・すると心の中にいろいろなアイデイアが生まれ、問題の解決策を見つけたり、さらに新しい課題を発見したりできます。これをイメージ出来るように目標を持ちましょう。皆さんが、牽引していくこれからの社会では、そのような想像力や発想力が重要です。

持続可能な社会と技術

 1992年にブラジルのリオデジャネロで、地球環境問題に関する国連会議が行われた時に話題になった言葉で、持続可能、サステイナブル(Sustainable)という言葉をご存じだと思います。もちろん、当初は環境問題のために使われたのですが、最近では非常に多くのものに、この言葉が使われるようになりました。技術開発、産業や経済の発展、社会のありかた、教育・・・。皆さんの使命のひとつは、「持続可能な社会」の実現にあると思います。そのためには、先程お話しした、3つのIが重要なのです。

 持続可能な技術についての例を、ひとつお話ししたいと思います。中国の甘粛省に毛寺村という所があります。この村は2,000人くらいの人が住んでいる小さな村ですが、真ん中を川が分断しています。そして、この川は毎年夏になると増水し、通常は水深が50cm程度の浅い川なのですが、時には数メートルの深さになり、これまで石と木で作っていた橋はいつも流されてしまっていました。ここに、なんとか安全な橋が出来ないかを考えた人がいました。香港中文大学のエドワード・ン教授です。
彼はまず、学生達と現地を調査した・・・つまり興味を持って観察を始めました。その結果、橋の高さを1.5m程度にすれば、1年の内、約350日程度安全であることが分かりました。かなりの山奥なので、鉄やコンクリートを使った橋を作ることはできません。そこで彼は、川が増水した時には、沈んでも流されない橋を考えることにしました。いわば沈下橋とでも言えるものをイメージして、デザインしたのです。橋の橋脚は針金で作った籠に石を入れたものを使って流れの中の抵抗を減らし、人が通行する橋の本体は木や竹などを使い、もし壊れても、簡単に村の人が修理できるものを作ることを考えました。2004年には、約70人の学生ボランティアが現地に入り、村の人たちと一緒になって、わずか1週間でこの橋を作ったそうです。

 彼らは、村の人が困っている問題に興味を持って、最新の学問的知識を活用して観察し、計測した結果を使って、橋をイメージしてデザインしました。その時のコンセプトとして、現地の生活環境に合ったものであること、もし壊れても住民が自分たちで修理できることを考えました。その結果、持続可能になるようにして、伝統的な技術や素材と近代的な考え方を調和させる事に成功しました。
最近、これが注目を集めて、中国の同じような山村に、このような橋を作るプロジェクトが開始されているということです。うれしいことに、このプロジェクトは、川という物理的なものに橋をかけながら、学生や住民の協力によって完成されるので、人と人を結びつけるものになっています。これは、持続可能な技術を生かすひとつの例ですが、皆さんがこれから活躍する社会は、このようなものを求めています。

高度研究型大学

 大阪府立大学は、「高度研究型大学」として、高度な先端研究成果を世界に提供し、社会の進展・・とりわけ大阪府の産業に大きく貢献している大学です。真に最先端の研究は、簡単ではありませんが、伝統的なものと調和させることが可能です。大阪府立大学は、高度な専門知識を得ることが出来るようにすると同時に、自分で問題を見つけ・考え・解決策を提案していく人を育てています。皆さんには、ここで学ぶことを通して、持続可能な社会を実現する人になっていただけると信じています。今日から始まる大学生活の中で、その可能性を見つけて成長させ、豊かな生活を送ってくださるように期待しています。そのために、私たちは全力で応援します。

 最後になりましたが、本日から府立大学の一員として活躍してくれる新入生の皆さんを祝福するために来てくださった、ご来賓の皆さま、ご家族の皆さまに引き続きご支援をお願いして、式辞とさせていただきます。

学長  奥野 武俊