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平成22年度 学位記授与式式辞

2011年03月23日

理事長・学長 奥野武俊
平成21年度学位記授与式

はじめに

 本日、卒業・修了を迎えられた皆さん、おめでとうございます。ここに多数のご来賓、教職員、ご家族の臨席を賜り、2010年度の学位記授与式を挙行できます事を、心から感謝し、厚くお礼申し上げます。

 皆さんが、大阪府立大学で過ごされた日々は、どのようなものだったでしょうか? 多くの仲間や先生達との出会いを通して充実した学びの時を過ごし、その中で様々な思い出をつくってきたことでしょう。時には、つらいこともあったかもしれませんが、それを乗り越えて、ここまで来られたのは、きっと多くの方の助けや励ましがあり、ご家族の支えもあったからではないかと思います。それらを思い出しながら感謝の心を大切にして、これからの歩みを確かなものとしてくださるようにお願いします。
いよいよ、大阪府立大学で学んだ高度な学問や、そこで得られた最先端の知識や技術を活かして、“社会を牽引していくリーダー”として活躍する時が来ました。大阪府立大学で学んだことを誇りにして活躍してくださることを心から期待しています。

グローバルな時代

 さて、2010年10月に発表された国連推計によると、世界の人口は69億人を超えました。このままいくと、100億人を超えるのは決して遠い将来ではないと予測されており、様々な問題が検討されるようになっています。中でも、地球の温暖化やエネルギー不足は、これからの時代の大きな課題になっています。これは、人・モノ・情報などが国境を越えて簡単に移動できるようになり、政治や経済を含めて多くのものを地球規模で考える必要があるためです。
このような社会の事を、グローバル化が急速に進んだ社会と言われています。その要因になったのは、様々な分野における科学技術の高度な進展にあり、中でもインターネットという情報ツールが開発され、使われるようになった事です。皆さんは、このような時代に育ち、活躍していくことになります。

 ご存じのように、インターネットが開発されるきっかけになったのは、1961年にアメリカのユタ州で3つの電話中継基地がテロで爆破され、国防回線が止まったことにあると言われています。その時、もし複数の町が同時に攻撃されるような戦争が起れば、従来の通信網は全く役に立たないことが分かり、従来の形の中継基地が不要となる通信手段の研究が始まりました。
当初は、軍事目的で開発されたものでしたが、1970年代には大学の人達が使いだし、1980年になると商用にも利用が開放されましたので、急速に世界中の人が使うようになりました。このインターネットは、皆さんにとっては、ごく当たり前のものになっているのだと思いますが、開発当時は、“通信手段”のひとつでした。それが、いまや人と人の“コミュニケーション手段”となり、それによって新しい文化やコミュニティがつくりだされるようになっています。

 つい最近、チュニジアやエジプトで起こった騒乱や革命に、このインターネットが大きな役割を果たした事が報道されました。中でも“フェイスブック”と呼ばれるサービスが有名になりました。このSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)といわれる手法は、特定の人とのコミュニケーションのためだけでなく、新しい人間関係やコミニュニティをつくりだすことができる可能性を持っているために、社会に及ぼす影響が非常に強いことが指摘されています。
私は、これからの若い人たちが、このような手法をさらに発展させて、自分の活躍の場をつくり、いわば“フェイスブックの時代”とでも言えそうな時と空間を創り出すのではないかと思っています。たとえひとりが持っている力は小さくても、簡単に小さなコミュニティをつくりだしていく方法は、これからの時代の力となるように感じるのです。

世界の世話役に

 ところで、幕末から明治にかけて活躍し、坂本竜馬などにも大きな影響を与えたと言われている儒学者に、横井小楠という人がいます。彼は、非常に開かれた考えの持ち主で、あの時代に、鎖国や幕藩体制を批判して、海外との交易を進めて経済的な発展を促すべきであると、幕府や政府に働きかけました。もし、彼があの時代にいなければ、横須賀に黒船でやって来たペリーがどのように開国を迫っても、それは実現しなかったのではないかと歴史書に書かれています。
この横井小楠が、当時の若者にむかって、これからは「世界の世話役」になるべきであると言いました。まだ開国されておらず、海外の情報はほとんど無かった時代に、明治の初期に活躍した若者達に留学の志を与え、社会で活躍するための指針を与えました。彼のこの言葉を、皆さんに贈りたいと思います。皆さんは、今日から仕事を通して様々な問題を現実に解決することになったり、あるいは大学院へ進んでさらに学びを続けて高度な研究に取り組むことになりますが、どちらにしても、グローバル化した国際社会で活躍することになりますから、「世界の世話役」になって欲しいと思います。この言葉を “はなむけ”にさせていただきます。

 世話役ですから、当然自分の事だけを考えるのではなくて、相手の必要を知ってそれに応えたり、人と人を結びつける働きかけが期待されます。欠点を見つけて批判するだけでは、世話役になることはできません。感謝の気持ちを忘れずに、謙虚になってまわりを見ながら、自分の考えをわかりやすい言葉で表現するならば、きっと世話役になれると思います。
もしかすると、「自分にはそのような力が無い」と言われる方がいるかもしれませんが、“世話役”という言葉は、そのような人にこそふさわしいと思います。自分には小さな力しか無いと自覚している人こそ、まわりの人を動かすことが出来ます。どんなに大きな池でも、そこに石ころを投げ込むと波紋が出き、それが円を描いて広がっていきますが、グローバル化した社会では、あなたの小さな行動が波紋を作り、それが広く伝わっていくのです。本当にそのような小さな働きで、大きな社会を動かすことが出来るのだろうかと思うかもしれませんが・・・・。

大きな船も小さな舵で制御する

 1962年、私がまだ高校生だった時、日本で初めて10万トンを超える大型タンカーが造られました。日章丸という名前の船でしたが、長さは約300メートル。それまでにはとても考えられなかった大きなタンカーでした。この船を動かすのは直径10メートルたらずのプロペラで、船の針路をコントロールするのは、やはり10メートル程度の小さな舵です。どのような大きな船でも、小さな舵でコントロールできます。ただ、舵を動かしても、すぐに船の針路が変わることを感じることができないほど、大きな船は少しずつ動きます。その針路を正しく示すのは、もっと小さなコンパス(羅針盤)です。たとえその動きが簡単に見えないようであっても、小さなプロペラや舵の動きが、大きな船を制御するのです。

 皆さんが、今日から乗り出す社会は大きな船のようなものかも知れませんが、どのように大きく見えたとしても、小さな行動がそれを動かします。皆さんが持っている力を舵のように使えば社会を動かすことが出来るはずです。大阪府立大学が育てることを目指している“社会を牽引していくリーダー”とは、もちろん国の大統領や首相になって引っ張っていくような人のことを意味していますが、大きな船を制御する舵のような役目を果たす人のことも意味しています。
どうか、大阪府立大学で学んだことを活かして、舵の役目を果たし、船の針路を正しく示すコンパス(羅針盤)になっていただきたいと思います。この社会が進むべき方向を正しく示すためには、高度な学問を修め、科学技術に対する広くて深い知識を持った人でなければなりません。皆さんは大阪府立大学でその力が培われたのですから、「世界の世話役」になり、社会を動かし、進むべき針路を正しく示す人になることができると信じています。

 

学長  奥野 武俊