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平成21年度学位記授与式式辞

2010年03月23日

理事長・学長 奥野武俊
平成21年度学位記授与式

 本日ここに多数のご来賓、教職員、ご家族の臨席を賜り、2009年度の学位記授与式を挙行できます事を、感謝し、厚くお礼申し上げます。まず、本日、卒業・修了される皆さんに、心から、「おめでとうございます」とお祝いをさせていただきます。

 皆さんは、ここで、4年、6年、あるかたは9年以上を過ごし、様々な出来事があったことでしょう。いまそれらを思い返して、懐かしい気持ちになっておられるかもしれません。皆さんの在学中に、たくさんの新しい建物も完成しました。例えば、総合教育研究棟、サイエンス棟、先端バイオ棟、そして、りんくうキャンパス…。これらを使った教育研究活動を皆さんが開始してくださいましたので、それをしっかりと次に引き継いで、立派に継続していくことをお約束します。皆さんにとって、この期間が充実した日であればあるほど、短く感じられたのではないかと推察いたします。

 本日、大阪府立大学の学位を得られ、これから、ここで学んだものを生かして、様々な所で活躍することになります。多くの専門的な知識を使いながら、様々な形でリーダーとしての役割を担っていくことになると思うのですが、たとえどのような難しい局面に遭遇しても、あきらめないで問題に立ち向かっていける、知恵と勇気も得たでしょう。 ぜひ、皆さんにはイノベーションを起していく、いわゆる“社会を牽引していけるリーダー”になっていただきたいと願っています。

 そのために必要なものとして、2つのことを取り上げたいと思います。まず、ひとつ目は、あなたの世界…、つまりあなたの専門分野であったり、クラスやクラブなど仲間の世界であったり、趣味の世界であったり…、を意味していますが…、そこから少し踏み出す勇気をもってほしいということです。

 ご存知のように、日本の携帯電話やデジタル放送技術は非常に進んでいて優秀ですが、残念ながら世界標準から離れ、置きざりにされていると言われています。これは、この分野の技術開発が日本国内の市場だけをにらんで行われた結果、日本という限られた世界で進化したためです。このような現象のことは、最近、“ガラパゴス・シンドローム”と呼ばれていますので、ご存知かもしれません。これは、ガラパゴス諸島に生息している動植物は島のなかで独自の進化を遂げた(有名なイグアナやゾウガメなどがテレビなどで紹介されています)のですが、大陸の影響を受けなかったことから名付けられたようです。

 つまり、携帯電話だけのことではなく、物事は、もし自分自身の世界だけで発展させると、それなりに楽しむことも、充実感も得られることでしょうが、その世界から飛び出して、広い視野から見直すことをしなければ、いわゆる“井の中の蛙(かわず)”になり、それに気づいた時は、もう遅いという結果になるというわけです。特にグローバル化の進んでいる現在は、それが致命傷になることもあるのです。

 先日、ある学生と話をしていましたら、「他人の言葉で傷つくことがとても嫌だし、人を傷つけることは、もっと嫌なので、できるだけ友達を作らず、話もしないようにしている」と言われました。私はとてもびっくりして、どのように返事していいか迷ったのですが、少し考えながらこう言いました。「確かに、他の人とコミュニケーションをしなければ傷つくことは無いので、いい考えかもしれませんね。そう、海や川にいる貝殻は殻を閉じてじっとしていれば、敵が来ても大丈夫、傷つくことはないでしょう。でも、その貝が殻を閉じたまま水を入れなければ栄養を取ることができませんから、成長することができませんよね。もし殻を開いて水を入れると、栄養も入ってきますが、たぶん砂や石ころも入ってくるでしょうから、痛みを感じたり、傷がついたりするでしょう。痛みも、苦しみも全く無しで成長することは…、きっと難しいのではないですか?」そんな話をしました。

 自分の世界から飛び出すためには、傷つくことを恐れないで、殻を開いて栄養のある水を入れなければなりません。その時、不必要と思われる嫌なものも一緒に入ってくるかもしれませんが、それは吐き出せばいいのです。それをしなければ、成長することはできないと思うのです。社会を牽引するリーダーになるためには、自分の殻から、一歩踏み出す勇気が必要です。

 もうひとつ大切なものとして、ここでは、“優しさ”という言葉を取り上げたいと思います。日本を代表する世界的な騎手に、武豊という方がいます。何度も優勝を重ね、2006年にはディープインパクトというサラブレッドと一緒にフランスに乗り込み、凱旋門賞というレースに出場したことを覚えておられるかもしれません。彼は、とても小さな体ですが、非常に苦しいトレーニングを重ねて、強靭な体力と精神力を養いました。レースでは、みんなが必ず1位になれると思っていましたが、残念ながら3位でした。しかも、最終的には失格になってしまいました。しかしながら彼は、このような困難を乗り越えて活躍し続けました。私は、そのような力はどこから来たのと…、と不思議に思っていました。

 彼がフランスに行ったときは、いつもハモンドという年配の調教師の世話になっていたそうですが、先日、このハモンドさんが書いているものを読んで、少し納得しました。そこにはこう書かれてありました。「ユタカは、他の選手と違うハートを持っている。彼には、強靭な体力と精神力をもっている者だけが備えている“優しさ”があって、それを競走馬が感じるからなのです。」と…。私は、この強靭な体力と精神力をもっている者に備わっている“優しさ”を知りたいと思いました。

 ハモンドさんのオフイスには、1908年にノーベル賞を受賞した、Joseph Rudyard Kiplingというイギリスの作家が書いた有名な詩が掲げられていているそうです。それは、「もし…なら…」という詩で、このようなものです。

もし、あなたの周りの人があなたを非難しても、落着きを失わないなら、
もし、みんながあなたを疑っても、人を思いやることができるなら
もし、夢を持っても、それに振り回されないなら
もし、勝利を得ても、それに酔うことなく、
敗北があっても、くじけないなら
………………
もし、今日のようなつらい別れがあっても、それを自分を変えるチャンスと信じられるなら
………………
その時、あなたは立派な大人になる

 残念ながら、私たちには、努力すれば必ず報われるという方程式は用意されていません。必ずしも希望する結果が出ると保障されているわけでもありません。しかし、たとえどのような結果が出ても、それを受け入れることのできる人、どのような困難があっても負けない人、その人には本当の優しさがあるのです。ともすれば、力が入って、志や、気合だけを求めてしまいそうですが、この優しさに心を留めたいと思います。

 今日から新しい世界で、大阪府立大学で得たものを最大限に生かして、立派なリーダーになる道を歩んでいただきたいと思います。繰り返しますが、そのために、一歩踏み出す勇気と、本当の優しさを求めてほしいのです。大阪府立大学で育ったあなたにはそれができると信じています。

 皆さんの活躍を期待して、お祝いの言葉にさせていただきます。

 

学長  奥野 武俊