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平成28年度入学式式辞

2016年4月6日

辻洋 学長
平成28年度入学式

はじめに

 新たに入学試験を合格されてここ大阪国際会議場におられる皆さま、またご家族の皆さま、ようこそ、大阪府立大学へ。

 新井純大阪府副知事、今井豊大阪府議会議長をはじめ、多くのご来賓をお迎えし、このように盛大な入学式を挙行できることを嬉しく思うとともに、ここに大阪府立大学を代表しまして、皆さまを心より歓迎いたします。

 入学おめでとうございます。

 この式辞において、4つのお話をしたいと思います。一つ目は流れ星、二つ目は富士山、三つ目は野球のピッチャー、四つ目はカーナビゲーションなどで使われている経路探索についてです。それぞれバラバラの話に聞こえるかもしれませんが、最後には、それらをつなぎます。

流れ星

 4週間ほど前にカンボジアの王立プノンペン大学を訪問する機会がありました。本学は、カンボジアだけでなく、タイ、ベトナムなど東南アジア諸国の大学と活発に交流しています。これらの国とは、国際会議を共同で開催したり、学生の相互交換を継続的に行ったりしています。その中で、カンボジアは内乱が長く続き多くの不幸なことがあったのですが、最近の政情は安定していて、日本からもいろいろな貢献がなされています。

 さて、プノンペンで宿泊しているホテルにバルコニーがあり、タイから来られている先生と一緒に星空の下でビールを飲みながら話をしていました。すると流れ星が見えたのです。ほんの一瞬ですが、とてもきれいなものでした。

 私は、すかさず願い事をしました。「流れ星が見えているときに願い事をすると叶う」と子供のころから聞いていたからです。願い事…夢ですよね。そのとき、「どうしてこのように言われているのだろう」という話になったのですが、一緒にいた先生の解説は次のようなものでした。

 「流れ星は突然見える。それもごく短い時間だ。いつも自分の夢を考えていれば、すかさずそれを言える。一方、夢を考えていない人は言えない。夢を常に考えている人は、それを実現するための計画をもっていて行動もしているから「流れ星が見えているときに願い事をすると叶う」のではないだろうか」。

 この話を皆さんはどう思いますか。私は「なるほど」と思いました。皆さんは夢をお持ちですか。将来のありたい姿をお持ちですか。今、この場で流れ星が見えたらそれを言えますか。

 一つ提案をしたいと思います、流れ星を見る機会は少ないですよね。これを「お月様」に代えてみませんか。ここにいる大阪府立大学の入学生は「お月様を見た時に願い事をする」。つまり、いつも自分の将来のありたい姿を考えていて、それを言えるように日ごろから練習しておきませんか。

 小さな夢でもいいと思います。すぐに実現できる夢でもいいと思います。具体的な夢でも抽象的な夢でもいい。「今日、現時点ではまだ、できていない」けど、「いずれ、こうありたい」ということを常に心に持つようにしませんか。そして、流れ星のようなチャンスが到来したときには、それを見逃すことなくつかみ取りませんか。もちろん、「こうありたい」というのは皆さんが成長するとともに、より大きくしたり、より長期的なものにしたり、より具体的にしてほしいと願っています。

 今晩からはじめませんか。「月を見た時には、すかさず夢を語る」。

富士山

 私はよく仕事で上京することがあります。朝10時ごろから都内や横浜で会議があることも少なくはなく、そのようなときには、朝6時前に起床し、7時ごろの新大阪駅発の「のぞみ号」に乗ります。疲れているためなのか、朝早く起床したためなのか、少し乗っていると、ぐっすりと眠ってしまいます。ところが、一時間半ぐらい経ったときに「カシャ、カシャ」という音がして、目が覚めることがあります。カメラのシャッター音です。

 「何ごとだろう」と思ってみると、窓の外には、世界遺産に登録された富士山が見えます。老人も子供も男性も女性も車イスの方も海外からみえたと思われる旅行者も皆、富士山の美しさにみとれたり写真を撮ったりしています。

 なぜ富士山は美しく高いのでしょうか。頂上に雪があると帽子をかぶっているようにきれいですし、傘雲がかかっていてもきれいですよね。もちろん、飛行機の窓から見る富士山もきれいです。

 ある人が富士山の高い理由、美しい理由について、「それはすそ野が広いからだ」と言われました。目をつぶって富士山のすそ野の広さを思い浮かべていただけませんか。

 話を皆さんの将来の専門知識のことに代えてみます。大学では専門知識を学ぶために最先端の研究に参加します。そのとき、高い専門知識を身につけるために「ある専門分野のあるテーマに集中して学習するのがいい」と、ともすれば考えがちです。そのため、入学してなるべく早く専門教育を受講し、それらを一生懸命勉強する一方で、教養教育を軽く考えてしまう人もいます。

 しかし、私は「専門知識だけの学習に終わるなら、大学でなくても学べるだろう」と思っています。そして、専門教育、特に理系の場合、学んだ知識はそれが実践的であればあるほど、すぐに陳腐化してしまうと確信しています。

 一方、教養教育で学ぶ知識は普遍的なものばかりです。「教養教育で学ぶことは職業として何に使えるのだ」と聞かれると説明しにくいかもしれませんが、教養がないと、交流できる人の数も減り、人との会話の幅も狭まります。その結果、皆さんが幅広い学びをしておかないと、富士山のように高く美しく成長することが困難になるのは間違いありません。

 私たちは、ここにいる皆さんが立派に成長して、より高度な研究をしたり、高度な学びをしたりするためには、富士山のように広いすそ野が必要だと考えています。大阪府立大学では、多くの教養教育だけではなく、主な専攻に対する副専攻というプログラムも用意して、皆さんの知識のすそ野を広げ、皆さんがより高くなることを支援しています。

 「副専攻」。一つのキーワードです。ガイダンスですでに聞いたと思います。副専攻を学んでみませんか。

ピッチャー

 かなり昔の話ですが、優勝したある野球チームに三人のピッチャーがいました。彼らは、多くの場面では相手打線を抑えていたのですが、時に「この試合を負けてはいけない」という大切な試合で打ち込まれることがありました。

 打ち込まれたとき、コーチはどうするのか。コーチの言った話が面白かったのです。一人のピッチャーの場合には、優しく慰める。「今日は運がなかったね。次回頑張ろう」というのでしょう。一人のピッチャーには、厳しく怒る。「そんなところにそんなボールを投げたら打たれるのは当たり前だ。何をしているのだ」とでも言うのでしょうか。そしてもう一人の場合には、何も言わず、そーっとしておく。コーチには、きっとその選手が自分自身で反省できるという確信があったのだと思います。

 この話から何を学びましょうか。私は「人には多様な個性がある」ということだと思います。失敗したときに、慰められて力を発揮できるか、しかられて力を発揮できるか、そっとされていれば力を発揮できるのか、人それぞれです。ですので、「友達が…するから私も…」というのではなく、「自分」で考えるようにしてください。私たち教員も皆さんを見ています。

 皆さんは、人生においてどんなコーチを持たれるでしょうね。いいコーチとの出会いが大切だと思います。コーチのアドバイスに耳を傾け、自分の強み・弱みを理解して、強みを伸ばし、弱みを克服することができるようになってください。

 この話には後日談があります。三人のピッチャーは「先発」で投げることを夢にしていたそうです。そのため、二人のピッチャーは、チームの事情で「救援」になることを求められたときに、「引き受けられない」と断りました。残りの一人は「コーチだけでなくファンなど周りに期待されることをしよう」と考え、立場を変えたそうです。「自分のやりたいことに固執するか、周りから期待されることを引き受けるか」。皆さんにもこういう選択を求められる時がいずれ来ると思います。

カーナビゲーション

 さて、皆さんは鉄道やバスの最適な乗り継ぎルートを検索するサービスやカーナビゲーションをご存知ですよね。最も安い値段で出発地から目的地に行く乗換方法を探したり、最短の時間で出発地から目的地に行くためのルートを探したりするもので、頻繁に使われているのではないでしょうか。皆さんは、このような探索問題をどのように解くかご存知ですか。

 これは、「最適経路探索問題」と呼ばれる有名な問題で、1950年代に研究が進みました。1970年代、私が学生時代には、その解き方の数学的な美しさにほれぼれとしたものです。多数の道や分岐点があってもこの理論でコンピュータを用いれば瞬時にして解けるのです。学生であった私にも、そのような経路探索という“問題”があるということがわかりましたし、また、答えを見つける方法も理解できました。

 しかし、その当時は、毎日、何百万人、何千万人の方がこの解法を日常生活で使うとは夢にも思いませんでした。実は、1980年代に、ある研究者が都内でこのルート検索サービスを評価しようとして山手線の駅に計算機を設置して社会実験したのですが、誰も使おうとしなかったそうです。その理由は、わざわざ駅に出向いてまで使う必要性がなかったからでしょうし、当時は、スマートホンとかタブレット端末がなかったので、手軽に利用できなかったからでしょう。

 私はこの最適経路探索からいくつかのことを学びました。

 一つは今言いましたように、当初には「とても役に立つとは思えなかった研究成果」や「利用が現実的でないと思い込んでいた技術」が、時を経て、環境の変化(例えば、誰もが購入できるスマホの登場)や、条件の成立(例えば、最新の道路情報や時刻表が電子的に安価に手に入る)などが起こった途端に爆発的に利用され、多くの人に役に立って喜ばれるということです。「実生活では役に立たない」と思いこんでいた研究が、あるとき急に役に立つのです。多くの人に恩恵を与えるのです。

 「基礎的なことを幅広く学んでおくことはとても大切だ」というふうに思いませんか。先ほどの富士山の話と通じるところがありますよね。

 もう一つ学んだことは、この目標に向かってルートを探すことが、ある意味、キャリア(人生)の作り方を示唆してくれるということです。現在地と目的地があれば、経路はいろいろある。最短時間で到達するか、安い値段で到達するか、乗り換え数を少なくするか、など評価の軸によって異なる。

 この問題を教えてくれた先生は、人生を経路探索になぞらえて「目標点が正確に決まっていなくても慌てることはない。大体の方向をとりあえずの目標として進んでいけばいい。進んで行って、そこで目標がより明確になったら、そのときにいる場所を新たな出発点として、その明確になった目標に向かっていく。周りの期待で目標を与えられることもある。仮に目標点が大きく変わってもそこからの最適経路は必ずある」と言われていました。

 キツネにつままれたような話に思われるかもしれませんが、私は感動に近いものを感じました。皆さんも、経路探索を行う都度、現在の自分、なりたい自分、そして、どういうキャリアパスを辿るかといった人生となぞらえてみませんか。

まとめ

 流れ星、富士山、ピッチャー、カーナビゲーションというバラバラの4つの話をまとめます。

 今、皆さんがおられる“ここ”が出発点で、皆さんはどういう目標あるいは目的地を持っているでしょうか。ある資格をとりたいとか、尊敬する人のような仕事をする人になりたいとか、はっきり目標、目的地を持っていれば、流れ星、いや、お月様に言いましょう。目標を達成するためには、先生や先輩のアドバイスを聞いたり、論文や本を勉強したりして、自分のすそ野を富士山のように広げてください。ピッチャーがコーチの指導を受けたり、あるいは自分でトレーニングしたりするように。

 もし、目標が明確でなければ、コーチともいうべき大阪府立大学の先生方のアドバイスに従って一歩、二歩と進んでください。きっと皆さんが気づいていない道を教えてくれると思います。そして、いずれ皆さんの人生の目標が見えてきて、そこに向けた最適経路が見つかる場面に出くわすでしょう。慌てることなく地道にコツコツです。図書館に行ったり、博物館・美術館に行ったり、音楽を聴くこともきっと皆さんの教養を広げます。

 大阪府立大学には、皆さんが目標に向かって近づいていくために、実力(知カラ)を身に付けるような教育カリキュラムを用意しています。その一つの特徴が副専攻です。副専攻修了者には修了証が出ます。

 そして、あるとき、これは卒業して何年か経ってからかもしれませんが、夢を追うだけでなく、周囲から期待されることがわかってくると思います。「何になりたいかではなく、だれに必要とされているか」を考える時が必ずくると思います。三番目の話で触れたピッチャーがリリーフになることを求められたように。

 皆さんが楽しく、また、充実した学生生活を送ることを心から期待しています。

 以上をもちまして、本日から始まる皆さんの新しい生活における飛躍を期待して式辞といたします。

学長 辻 洋